言葉と文化がロボット開発に与える影響

 単純な話ではあるが、中国語で「ロボット」を「機器人」(機械の人)と表現することが、中国で人型ロボットに注目が集まる要因の一つではないかと筆者は思う。我々にとっての「ロボット」は、中国人にとって「機器人」であり、そこに「人」という文字が含まれる限り、中国のロボット開発者の思考には「人型」というコンセプトが無意識的に刷り込まれやすいのではないか。

 ちょっと裏話をすると、今回のマラソン大会の参加者は、優勝した北京Xヒューマノイドや松延動力を含め、ほとんどが北京に拠点を置くロボット開発企業や研究機関だった。実はこのマラソン大会は、中国政府と北京市が2015年から毎年開催してきた「世界ロボットフォーラム」が今年8月に10回目を迎えるための「前フリ」イベントとして位置づけられていた。春節以降に急拡大したロボットブームに便乗して企画を思いついた北京市政府が急ぎ関連企業に声をかけたものの、ロボットの運動機能開発で先行する深センの宇樹科技など、長江・珠江周辺地区を拠点とする企業の多くは「準備期間不足」を理由に参加を見送っていた。

 しかし、ブームの威力は凄まじい。経済メディア「財新」によると、今年3月に投資家説明会を開いた人型ロボットのスタートアップ企業のCEOは「ゼロから3カ月でロボットを作ってみせる」と宣言したという。

急速なロボットブームで、投資が過熱している

 前回の記事で、経済的停滞に焦る中国では「スマートカー」業界への期待が高まっていることを紹介したが、同様に、現在の人型ロボット業界は、中国政府が未来を託す重要産業の一つになっている。そのため投資が急速に集中し、業界のスタートアップ企業にとって1億ドルの資金調達はもはや高いハードルではなくなりつつある。

 産業機械関連データ研究所の統計によれば、今年1~2月における国内のスマートロボット投融資規模は44.5億元(約863億円)と、昨年1年間の総額にほぼ匹敵する水準に達した。具体的には、(春節後の)2月だけで億単位(1億元=約19億円)の融資が6件、100万元(約1940万円)単位の融資が2件、さらに金額非公開の融資が27件行われた。その結果、2月単月で国内プライマリー市場の取引額は29.6億元(約574億円)から47億元(約912億円)に急増した。

 3月末には、設立わずか50日のスタートアップ企業が1.2億ドルの融資を受けたと発表。投資家リストには国内著名ベンチャー投資企業も名を連ねていた。