こうした業界の過熱ぶりに対し、大手国内ベンチャーキャピタルの草分け「GSRベンチャーズ」を率いる著名投資家、朱嘯虎氏が3月末に冷や水を浴びせた。彼は「エンジェル投資家として、我々はこれまでずっとエンボディドAI※プロジェクトに初期投資を行ってきたが、ここ数カ月は撤退を進めている」と述べたのだ。

「何人かのCEOに『あなたたちの商業化のための潜在顧客はどこにいるのか?』と尋ねてきた。私には、彼らの言う顧客はすべて架空にしか思えない。誰が、単純な作業をこなすだけのロボットに何十万も費やすだろうか?」

 GSRベンチャーズは配車サービス「滴滴出行 DiDi」やフードデリバリー「餓了麼」、シェアサイクル「ofo」、旅行予約サイト「去哪兒」、人気SNS「小紅書」などへの初期投資で知られる目利き集団だ。朱氏の発言は業界に衝撃を引き起こした。

※エンボディドAI(Embodied AI)…頭脳で考えるだけでなく、物理的な存在を持ち、体を動かして行動、学習するAIのこと。ロボットやセンサー、トライ&エラーを通して自分で学習するAIなどを指す。

ロボット業界が朱氏に反発

 朱氏の見解に賛同する業界人もいたが、特に強い反発を示したのは「エンボディドAIプロジェクト」の最先端を行くロボット業界だった。宇樹科技に次ぐロボット業界No.2スタートアップとされる「衆擎機器人」(EngineAI)は激しく反論。同社CEOは朱氏を「短視眼的」と批判し、「目先のことで未来を否定している」と非難。さらに「彼は非常に成功した頭脳明晰な商売人かもしれないが、起業家精神とは異なる」と述べた。同時に同社が近く中東からの資金調達を実現し、産業革命レベルの人型ロボットを開発する計画だと発表した。

 朱氏の同業者からも、彼の発言は業界の名誉を傷つけるものだとする批判の声が上がった。その後、GSRベンチャーズが初期投資を行い、実際に資金を引き上げた2つのロボット企業――「星海図」と先のマラソン大会で2位となった松延動力もそれぞれ声明を発表。2023年9月に創業した前者は、GSRベンチャーズが投資から半年で資金回収したものの、その後も他の著名大手ベンチャー企業から資金調達に成功していると強調した。一方、松延動力は自社製ロボットの動画に「雑音を恐れない」という文言を添え、開発継続の意志を示した。