ソマリアで海賊→捕まって府中刑務所に懲役10年…心を閉ざした青年が鼻歌をした意外なきっかけ写真はイメージです Photo:PIXTA

無政府状態となり社会が崩壊したソマリアでは、住民の多くが生きるために海賊に身を投じた。小さな高速ボートに乗りロケットランチャーなどで脅して停めさせ、タンカーや貨物船を乗っ取る。そして船会社から身代金を取るのだ。そんな海賊の1人が、府中刑務所に収監され、処遇困難な受刑者が集まるエリアで心を閉ざして生きていた。※本稿は、山本譲司『出獄記』(ポプラ社)の一部を抜粋・編集したものです。

アフリカから来た受刑者は
まったく心を開かない

 中にいる黒人男性の名前は、マッハムード。年齢は、推定で27歳だという。こけた頬と、梟のように大きく鋭い目が特徴的だった。6年8カ月前に、アフリカのジブチから連れてこられ、日本で裁判を受けた結果、彼は今、ここにいる。府中刑務所に収監されてからは、すでに3年半以上が経過していた。

 けれども彼は、一度も職員と口を利いたことがない。何を話しかけようが、表情を変えることすらしないのだ。当初は、一般工場に配役されたらしい。だが、作業机に着くこともなく、ただ佇立しているだけだった。当然、遵守事項違反の「作業拒否」ということで、懲罰房送りになる。その累計は、20回を超えていた。それでも彼には、まったく変化がなかった。とにかく、何事に対しても反応が見られないのである。

 三浦勝一(編集部注/教育専門官。受刑者たちへの矯正教育を担当)は、経験上、理解していた。反抗的な者よりも、より扱いが難しいのは、無反応な者だと。マッハムードの場合は、そもそも、こちらが話している内容を理解しているのかどうかも分からない。