
収監された女子受刑者が妊娠していた場合、刑務所では出産のサポートを実施している。破水した受刑者は手錠と腰縄を打たれて車に乗せられ、刑務所外の産科病院へ急ぐ。助産婦、看護婦、そして刑務官に見守られながら生を受けた子供は元気に泣き、母も喜びの涙を流した。だが、母子がともに過ごせる時間はわずかだった……。※本稿は、山本譲司『出獄記』(ポプラ社)の一部を抜粋・編集したものです。
捕縛と手錠のまま
女性受刑者が出産
あの子がこの世に誕生した時──。それは、何度思い出しても、感動的な場面である。高田恵子(編集部注/刑務官)は、今もその出産時の情景が、頭から離れない。
分娩室に入ってから、1時間ほど経ってからだった。浅村花江(編集部注/受刑者)が凄まじい形相になって、必死に息む。上半身を半分起こした姿勢で、分娩台の両脇にあるグリップを握り締める。右手の手錠はかけられたままだが、その自由を奪っていた捕縄は、鉄枠から外され、四ツ谷が手にしていた。
開いた足の間から、赤ん坊の頭の一部が出てくる。頭が、ゆっくり右回りに回転し、だんだん大きくなっていく。おでこが見え、鼻が見えてきた。その瞬間、飛び出てくるようにして全身が現れる。助産婦が抱き取った時、産声が聞こえてきた。
ハサミを持った医師が、臍帯の2カ所を留め具で挟み、その間を切断する。
恵子だけでなく、助産婦も看護婦も、そして四ツ谷も、赤ん坊と花江の様子を交互に見ていた。
助産婦が、赤ん坊の顔を、花江のほうに向ける。
「元気な女の子ですよ」