
パワハラ防止で「ヒラメから風見鶏」へ
かつてのオフィスには、いわゆる「ヒラメ上司」が君臨していた。ヒラメの目が上向きについているように、上ばかりを見て出世を志向し、部下に対しては強権的な態度で臨む管理職である。
彼らは部下を怒鳴りつけ、自己主張を押し通し、リスクを恐れずに組織を前へと進める推進力を持っていた。もちろん、その言動にはパワハラ的な要素も多分に含まれていたが、少なくとも物事をやりきる責任感がセットで存在していた。
しかしながら、2020年に改正労働施策総合推進法(通称・パワハラ防止法)が施行されてから、社会全体でハラスメントに対する感度が急速に高まった。企業はコンプライアンスを重視する方向へかじを切らざるをえなくなったのである。上司が部下を強く叱るとすぐに内部通報されるかもしれない難しい時代になり、怒鳴り声や威圧的な態度は問題視されるようになった。こうして、オフィスを闊歩して歩いていた、かつてのヒラメ上司たちは、職場から静かに姿を消していったというわけである。
「ヒラメ上司」の不在を埋めるようにして登場したのが、「風見鶏上司」である。風見鶏上司とは、その名の通り、周囲の空気や風向きに合わせて意見や態度を変える管理職を指す。
彼らは一見、穏やかで協調的に見え、部下の意見にも一応の賛意を示し、上司の方針にも即座に順応する。だが、その内実は自らの意見を持たず、責任をあいまいにすることによって立場を保つ、いわば「無風の日和見主義者」なのだ。
彼らは、今の時代にフィットする処世術を持っているが、実は企業としては、大きな問題を抱えることにつながっている。企業、そして社員はどう向き合うべきだろうか。