だが、当然ながら、これらの風見鶏上司を横行させると、企業としての本質的な力は徐々に損なわれていく。このような人ばかりが活躍する組織では、誰もリスクを取りたがらず、率直な意見を述べなくなる。結果として、挑戦しない、決断しない、責任を負わない文化が根付いてイノベーションはさらに停滞する。
では、このような風見鶏上司のまん延を防ぐために、企業は何をすべきだろうか。
ハラスメント教育を徹底し不要な恐れを取り除く
第一にすべきことは、意外に思われるかもしれないが、ハラスメント教育を全社員向けに再度しっかりと行うことである。というのも、パワハラ防止法の施行時には、一通りハラスメント教育をした企業であっても、社員の多くが「何をすればハラスメントになるのか」をいまだに明確に理解していないからだ。わからないから叱責や指導の正当性とハラスメントの境界があいまいなまま、いわば「摘発恐怖」のようなものに支配され、結果として無難な言動という振る舞いに逃げ込んでいるのである。
企業はこの点に対し、単なるリスク回避教育ではなく、「適切な指導とは何か」「部下との健全な関係性の築き方とは何か」という観点から、管理職への教育体系を見直す必要がある。
第二にすべきは、集団における意思決定プロセスの型を作り上げることである。
(1) 問題の定義
(2) 解決すべき内容と最終的にどうなりたいかの明確化
(3) 問題の構造分析
(4) 代替案の策定
(5) (2)に基づいた評価基準の策定
(6) 代替案の評価と意思決定
上記のようなプロセスを集団で順序立てて進めていけば、感情的な対立を生む可能性は少なくなる。ふわふわと風見鶏的に動かずとも、自分たちが現在何に取り組んでいるか明確になるし、もっと上の上司からの要望や環境が変われば、風見鶏的ではなく、評価基準の軸を変えることによって合理的に意思決定が行える。また説明責任も果たせる。
第三に、上司に対する部下からのフィードバックを正式な評価プロセスに組み込むことが重要だ。部下は、上司が信頼に足る人物か、実際に頼れる存在かを肌で感じている。匿名での360度評価を導入することで、表面的な“良い人”は、本当の意味で信頼される上司ではないことを明確にしていく。