なぜ、コクヨはデザインを統括・管理するデザインセンターを設置しないのか
勝沼 コクヨのビジネスは、ライフスタイルとワークスタイルの2領域が柱となっています。それぞれの事業を統括するデザイン組織はあるのですか。
黒田 それぞれの事業部の中にデザインチームがあって、事業にデザインが溶け込んでいるという組織体です。一方で、「YOHAK DESIGN STUDIO」と呼ばれる経営企画室直属のクリエイティブチームがあります。これはどちらかというと実験的なクリエイティブを独自に手掛けるチームで、ここでの活動がインハウスデザイナーの育成にもつながっています。

勝沼 製品やオフィスがブランドを生み出す構造上、デザイン面でそれを支えるデザインセンターが必要ではないか、といった意見もありそうです。
黒田 そのような意見ももちろんありますが、いつも議論になるのは、デザインセンターができたとして、センターが事業の現場にどのように関与すべきか、ということです。各事業部のメンバーは、お客さまのニーズや課題を徹底的に考え抜いて、最良のアウトプットを生み出す努力を日々続けています。それに対して、デザインセンターのディレクターのような人が意見できる余地はあるのか、むしろ、各事業部のメンバーがそれぞれの課題に向き合う中から、コクヨらしさが自然に生まれると考えるべきではないか──。そんな議論です。現段階では、各事業部がお客さまの求める体験を実現することを尊重しようというのが社内のコンセンサスになっています。
それから、今年で22回目となった「コクヨデザインアワード」。実はこれもコクヨらしさを考える重要な機会です。外部の審査員の皆さんが受賞作品を選考する過程が、そのまま「コクヨらしさとは何か」という議論をアップデートする場になっていると僕は考えています。これは、アワードを継続している意味でもあります。
勝沼 なるほど。各事業部それぞれの日々の取り組みや、外部の視点によって「らしさ」が自然と定義され、かつそれが常にアップデートされていくということですね。