コクヨが「コクヨらしいオフィス」を追求しない理由

コクヨの社長が語る、デザインセンターのない会社がデザインで体験価値を高められる理由――コクヨ 代表執行役社長・黒田英邦氏インタビューJUN KATSUNUMA
多摩美術大学卒業。NECデザイン、ソニー、自身のクリエイティブスタジオにてプロダクトデザインを中心に、コミュニケーション、ブランディングなど、幅広くデザイン活動を行う。国内外デザイン賞受賞多数。デザイン賞審査員も務める。2020年 NEC入社、デザイン本部長として全社デザイン統括を行う。2022年度よりコーポレートエグゼクティブとして、経営企画部門に位置付けられた全社のデザイン、ブランド、コミュニケーション機能を統括。2023年より現職。
Photo by YUMIKO ASAKURA

勝沼 オフィスで仕事をする社員は、いわば社内のユーザーです。社外か社内かを問わず、「ユーザー視点で体験をデザインする」ことを徹底しているわけですね。

黒田 その通りです。コクヨのライブオフィスは全国に計29カ所ありますが、デザインのコンセプトはそれぞれに異なっています。なぜなら、それぞれに働く人が異なり、求められる体験も異なるからです。それを追求した結果がオフィスデザインですから、「コクヨのオフィスはこうあるべき」という統一的なコンセプトはありません。

勝沼 コクヨの事業は時代とともに変化しています。その変化もやはり、ユーザー視点に立ったものなのでしょうか。

黒田 それもおっしゃる通りですね。お客さまの課題やニーズに合わせて事業をピボットしてきました。一貫しているのは「文具の解像度」でものを作り、体験をデザインするということです。オフィス家具や空間をつくる際も、鉛筆やノートと同じようなスケールで細部にこだわり、使いやすさを徹底的に追求しています。

勝沼 では、製品や空間のデザインにおける「コクヨらしさ」についてはどうお考えですか。

黒田 造形として「こうでなければならない」という方針はありませんが、デザインする上で、「ユーザーの共感を生むか生まないか」という視点はとても重視しています。「コクヨらしさ」とは、ある意味押し付けであり、そこから共感は生まれません。

 コクヨがデザインの機能をインハウスにしているのも、お客さまの共感を生み出す志向をデザイナー全員と共有するためです。コクヨが手掛けている製品は、広い意味でお客さまの創造性を高めるためのものです。そのような製品を作るためには、自分たち自身が常に創造的でなければなりません。その創造性をいわば空気のように社内に行き渡らせるには、デザインのインハウス化は必須といえます。