「誠実な変態」がつなぐ経営とデザイン

勝沼 デザインの力を経営に活用していく際には、経営とデザインをつなぐ人材が必要だという考え方があります。そのような人材が「CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)」と呼ばれたりするわけですが、コクヨにはそのような人材はいるのでしょうか。

黒田 CDOは設けていないですが、クリエイティブ室のディレクターである安永哲郎がその一端を担っているかもしれません。社内のいろいろなプロジェクトに関わって、「経営とデザイン」という視点を持って議論に加わるのが彼の一つの役割です。プロジェクトをリードしたり、マネジメントしたりするわけではなく、あくまでアドバイザーやサポーターのような立場でアイデアを出していく仕事です。もちろん、経営のスタンスで上から意見を押し付けるといったことはありません。

勝沼 安永さんが、そのような役割を果たせているのはなぜなのでしょうか。

黒田 僕は、彼を「誠実な変態」と呼んでいます。仕事に対してもお客さまに対しても、非常に誠実でありながら、出してくるアイデアは誰にも思い付かないようなものです。それが安永の個性です。彼の強みは「価値観の幅」にあると思います。彼は副業で保育園の経営に関わったり、DJをやったりしていて、その経験が価値観の幅を広げていると感じます。

 有意義な議論をするためには、多様な意見や価値観を受け入れる感性が必要です。最初から答えを決め付けずに、いろいろな意見に粘り強く耳を傾けて、みんなが納得できる形で答えを絞り込んでいく。そんな議論の流れをつくれるのが安永の持ち味です。彼自身に価値観の幅があるから、多様な意見のそれぞれをリスペクトできるのだと思います。

勝沼 多様な価値観を受け入れる力。それが、企業におけるデザインのキーパーソンに求められる素養の一つといえそうですね。

黒田 そう思います。究極的には「生き方」と言ってもいいかもしれません。創造的に生きようとしているかどうか。それがとても重要だと僕は思います。創造的に生きようとすれば、忍耐力も必要になります。自分のアイデアを否定されてすぐにへこんでしまう人は、デザイン部門の責任者には向いていないでしょう。独自のアイデアをどんどん出して、却下されても決してくじけず、何度でもチャレンジしてより良いものを作る努力ができる。そんな素養が、責任ある立場のデザイナーには求められるのではないでしょうか。