女性はややがっしりとした体つきで、肘から先の腕にはうっすらと筋肉の筋が浮き上がっています。顔は牛乳を注ぐポットに向けられていて、その表情から感情を読みとることはできません。画面左側に描かれた窓からは日光が射し込んでいて、女性の顔の右半分や上半身、牛乳を注ぐポットと注がれる陶器、テーブルの上を明るく照らしています。女性のすぐ後ろには無地の白い壁があり、所々に釘を刺したあとのような穴がポツポツあります。」

 このように、目に映るものを言葉に置き換えることを、「ディスクリプション」と呼んでいる。

 ディスクリプションとは、「記述、描写、説明、表現」などの意味をもつ英単語だが、その名の通り、自分が見たものをそのまま言葉で記述していくこととして、ここでは使っている。

人は1枚の絵を
17秒しか見ていない!?

 なお、ここで求められるのは主観的な感想を排すること。できるだけ客観的に、事実だけを説明することだ。事実と自分の感想を分ける練習は、観察力を鍛える上で重要だ。

 自分の解釈、感想を、事実と思ってしまうと、観察は止まる。そして、その勘違いは、かなり起きやすい。

『観察力を磨く名画読解』(エイミー・E・ハーマン)によると、美術館を訪れる人が1枚の絵にかける時間は平均17秒だそうだ。せっかちな僕は、もっと短い時間で見ているかもしれない。

 美術館までわざわざ行って、人はそれだけの時間しか見ない。画集などで見るときは、もっと少ない。「見る」だけだとその絵の中に詰め込まれた、多くの情報をつかむことなく、「わかったつもり」になってしまう。勝手に見終えてしまう。じっくりと時間をかけるという観察に絶対に必要なことが、実はなかなかできない。

 ディスクリプションをしようとすると、必要とする言葉の長さの分、必然的に長い時間見ることになり、いろいろなことに気づける。

 では、もう一度、「牛乳を注ぐ女」を見直して、頭の中でディスクリプションをしてみてほしい。そして、僕と一緒にキューピッドについて話をしよう。

 さて、どれくらいの人が、キューピッドに気づいていただろうか。僕は、はじめはまったく気づかなかった。