
日米間の関税交渉で、日本の造船技術支援を交渉材料に、米国の関税措置の見直しを促す「造船カード」が注目を集めている。米国のトランプ政権は、造船業を復興しようとしている。石破政権は、日系造船メーカーなどに、米国の造船企業に投資させるなどして、自動車関税を下げさせるための取引材料とする検討を進めているようだ。しかし日本の造船業は韓国や中国に市場を奪われ、造船能力は縮小している。一方、米トランプ大統領は、同国からの輸出に使用する船舶の多くを米国製とすることを義務付ける新規制を打ち出し、LNG(液化天然ガス)輸出事業者は米国で建造したLNG輸送船を一定の割合、使用しなければならないと発表した。これに即応したのが韓国造船業で、早くも米国でのLNG船建造の意思表明をしている。造船大国となった韓国の前のめりの姿勢に、日本の「造船カード」は太刀打ちできるのか。(エネルギージャーナリスト 宗 敦司)
米政府がLNG船に国内建造を求める規制も
トランプ岩盤支持層が反発
USTR(米通商代表部)は4月17日に「中国の海洋、物流および造船部門支配力強化に対するUSTR301条措置」を発表した。これにより例えば外国産自動車運搬船にはCEU(船舶の車両搭載能力単位)当たり150ドルの手数料が課される。またLNG(液化天然ガス)輸出事業者に対しては2028年4月以降、輸出量の1%を米国製の船舶で輸送しなければならないとした。それも経過措置であり、47年4月以降には米国製のLNG輸送船比率を15%にまで増加する必要があると義務付けた。
USTRの発表で困惑したのは米国の関連業界である。米国製の自動車運搬船などほとんど存在しないため対応に苦慮している。ただでさえ輸入自動車に高率の関税を課す、としている上に、輸送手数料も跳ね上がることになる。またLNG輸送船についてはトランプ大統領の岩盤支持層でもあるLNG業界からの反発を招き、石油・ガス業界団体のAPI(米国石油協会)も、この規制からLNGを除外するよう要請している。
こうした状況の中で日本政府は、造船業における投資や技術・人材支援などを内容とした「造船カード」を、自動車関税を米国に引き下げさせるための交渉のカードとして使うことを検討しているという。衰退した米国の造船業に対する日本からの支援は、交渉材料として使えるかどうか、次ページで探る。