若手社員を「異質な他者」として認め、辛抱強く見守る

 以前と比べ、若者たちの、仕事に対する価値観やキャリアに対する考え方はどう変化しているのだろうか。

児美川 昨今の学生や卒業生たちと話していると、「組織に頼っていれば何とかなる」という考えはなく、キャリアは自分で決めていくものという意識が浸透していると思います。特に目立つのは、就職するときから「いずれは転職するだろう」と考えている人が多いことです。転職への抵抗感がなく、ある程度働いてみて、「ここは自分のいたい場所ではない」と思えば、パッと飛び出してしまう。学生時代の就活で大企業志向はそれほどなく、社会人経験を積むとさらに会社を見る目が肥えるので、知名度や給料などよりも、働く環境や社員を見て、自分の希望に合うところへ上手に転職している印象もあります。

 また、「出世競争を勝ち抜いて少しでも上に行きたい」というタイプの学生が少なくなり、やる意味がわからないことは「タイパが悪い」と感じてしまう傾向も強まっています。会社がいろいろな理由をつけて、成長やリスキリングを促しても、若手にとっては、それが自分の今後にどうつながるのかがわからないから響かないという場面も増えているようです。

 そうした価値観や考え方を理解したうえで、企業の経営陣や人事担当者は、若手社員の「キャリア自律」にどう向き合っていけばよいのだろうか?

児美川 さまざまな価値観の人たちを受け入れて、戦力になってもらわなくてはならないので、企業、特に人事担当者は難しい課題に直面していると思います。新入社員や経験の浅い若手に対しては、「異質な他者」という意識を持って、辛抱強く育てることが大切です。若者のほうが耐えられずに、あっという間に辞めてしまうケースもあるので、すべてが企業の責任ではありませんが、十分に対話をしないまま、ミスマッチかどうかがわからない状態で離職されてしまうのはもったいない。いまの若者たちは、上の世代と感覚は違いますが、言葉が通じないわけではありません。若手はこうだと決めつけないことが大切です。こうしたことを、受け入れる側の社員の方々が理解して、手間は少しかかりますが、丁寧にコミュニケーションを取っていけば、若手が職場に定着して、それぞれの力を発揮するチャンスも増えるのではないかと思います。