そしてアックジョンや新沙(シンサ)といった地区は、韓国が世界をリードする美容整形ビジネスが、驚異的なほど集中しているところでもある。
このあたりは「ビューティー・ベルト」とか「整形ベルト」あるいは単純に「美容整形通り」(これは間違った名前だ。この地域のこんな通りは1本どころでは済まないのだから)というあだ名がついている。
クリニックの看板には
大変身できそうな言葉が踊る
2020年、韓国の国税庁によると、国内には総計で1008軒の美容外科医院があった。そのうちの538医院はソウルにあり、その中の400ほどがカンナムにあった。
カンナムのビルの横側にはさまざまな美容整形クリニックの看板が並び、15階建てのビルの各階にそういう診療所が入っていることはよくある。
クリニックの英語名はいかにも期待が持てそうなものだ。「エレベート(向上させる)」。「ソリューションズ(解決策)」。「リボーン(生まれ変わる)」。「フィール・ソー・グッド(とてもいい気分)」。
「エレベート」は本当にふさわしい。視覚文化(編集部注:ルッキズムのこと)によって設定された達成不能な理想に近づくために、たいていの人間にとって唯一の方法はデジタルで加工するか、実際に「フィラー(編集部注:美容医療で使用される注入剤または注入治療のこと)」を行なうかだ。
正真正銘、肉体を変えるしかない。
韓国の急速に発展している産業や生物医学(バイオメディカル)部門は、ソーシャルメディアによって増幅された他人との競争的な傾向に対処するため、体の表面の強化、つまり自分のスペックを向上させることを、ほかの国よりも手頃で開放的で入手可能なものにした。
どんな病的な要望にだって
韓国の外科医は応えてくれる!?
アメリカの形成外科医や皮膚科医は「スナップチャット異形症」という言葉を作った。これはアプリで加工した自分の顔にもっと近づけるため、美容整形したがる若い患者を表現したものだ。
こういうアプリは「われわれに現実感を喪失させる。人は現実の自分も、完璧に整えられてフィルターを掛けられた姿に見えることを期待するからだ」と、医師たちは「JAMAフェイシャル・プラスティック・サージェリー」誌で警告した(編集部注:JAMAは、世界でもっとも権威ある医学会の1つである米国医師会が発行する雑誌)。