学徒出陣から生還した東京帝大生が70年の沈黙を破り語った言葉写真はイメージです Photo:PIXTA

戦局劣勢の日本では、1943年、ついに学徒出陣が行われ、そこで「生還を期せず」と語った東京帝大生・江橋慎四郎は、戦後に「生きているではないか」と猛批判を浴びた。江橋はその後長い間沈黙を保っていたが、93歳にして初めて口を開いた。そこで語られた葛藤と衝撃の事実とは?※本稿は、保阪正康『戦争という魔性 歴史が暗転するとき』(日刊現代)の一部を抜粋・編集したものです。

いまだからやっと語れる
戦争へ出陣する学徒の本音

 学徒出陣というと、昭和18(1943)年10月21日の明治神宮外苑競技場で行われた「出陣学徒壮行会」がすぐに思い浮かぶ。学生服に身を包んだ大学生が銃を肩に戦場に赴くべく行進する姿は、今もフィルムで見ると戦争の無情さにつながっていく。

「雨の中の儀式」「見送る女学生たちの涙」「決然と行進する学徒」といったナレーションがついている。たしかにフィルムではそうなのだ。

 この学徒たちにも、私は何人か話を聞いている。「あなたはどういうつもりで行進していたのですか」との問いに、「むろん戦場での死を覚悟していましたよ」という答えがほとんどだが、「本心を言えば、とうとう戦争に引っ張り出されるのかと複雑な気持ちでした。戦場には行かないようにと願っていましたね」と東京帝大の学生(戦後は大手企業の役員)は本音を漏らした。彼は、大体はそう思っていたはずだとも漏らしていた。