
1912年に古物商ウィルフリド・ヴォイニッチによって発見された『ヴォイニッチ手稿』。独特なタッチの挿絵と、その隙間を埋めるように文字が書き込まれている、全編手書きの古文書だ。だが、そこで描かれている植物は実在のものとはかけ離れた姿で、書き綴られた文章は暗号化されている。今もさまざまな憶測を呼ぶ『ヴォイニッチ手稿』の謎に迫った人々を紹介しよう。※本稿は、三崎 律日『奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです。
『ヴォイニッチ手稿』には
1枚の手紙が添付されていた
ウィルフリド・ヴォイニッチ(ポーランドの革命家。イギリスとアメリカでは古物商)は、とりわけ稀覯本を中心に商売を行っている古物商でした。
1912年、イタリアのイエズス会派修道院ヴィラ・モンドラゴーネで『ヴォイニッチ手稿』を発見します。
手稿を手にしたヴォイニッチは、いままで取り扱ってきた書物とは一線を画すものであると瞬時に感じ取りました。特に興味を引いたのは、手稿に添付されていた1枚の手紙です。
羊皮紙にラテン語で書かれた要旨は次のようなものです。
この本を一目見たときから、これをあなたにご覧いただかなくてはと感じました。この謎めいた書物を読み解けるのはキルヒャー猊下、貴方をおいてほかにはおりますまい。これはかつて神聖ローマ皇帝ルドルフ2世が、何者かから「かの英国人ロジャー・ベーコンの手なるもの」として600ダカットで買い取ったものだと言います。しかし真偽は不明です。あなたのその慧眼が真実を見抜かれることを信じております。
ヨアンネス・マルクス・マルチ
プラハ、1665(6?)年8月19日
『ヴォイニッチ写本の謎』(ゲリー・ケネディ、ロブ・チャーチル著、松田和也訳、青土社)より改変