フィーリーが着目したのは、女性たちが緑色の液体に浸かっている絵でした。

世にも奇妙な謎文書『ヴォイニッチ手稿』解読に挑んだ暗号学者が「死後」に遺したメッセージ同書より転載

 これにはかねてより、「子宮と卵巣」の暗喩であるという見解がありました。

 上部左右の蜂の巣のように描かれている部位が「卵巣」であると仮定し、付随するヴォイニッチ手稿の文字と「卵巣」のラテン語訳である「femminino」とを照らし合わせました。

 フィーリーはこれを手掛かりにして、次は図中央の管に書かれたキャプションを同様の方法で解読しました。

 当時のラテン語表記にしばしば見られた、文字の一部を省略する記法に悩まされながらも最終的に、「それらは互いに注ぎ込まれる(ist(i)(i)nfundunt(u)r)」という解読文にたどり着いたのです。

手稿の持つ「異常性」が
解読を難航させる

 図を表すのにふさわしい文を見つけ出したフィーリーは、本文全体の翻訳に取り掛かります。苦労の末、導き出したのは次のような文章です。

 十分なる湿気。分岐す。爾後、分裂小型化す。爾後、離れたる場所にて、前嚢となる。管となり、暫時の後、反芻さる。十分なる湿気。小脈に包まる。然る後、下に移る。小脈の突出の内に小さき乳首生ず。不透過化さる。下に投げ落とさる。反芻さる。小さき乳首にて女性化さる。偶々完全なる女性性を付与さるるべく操作さる。

『ヴォイニッチ写本の謎』(ゲリー・ケネディほか著、松田和也訳、青土社)より引用

 ほかの文章も、ほぼすべて反復と単語の羅列のような文が続きます。フィーリーはこの訳文から、「手稿は筆者が残した実験ノートである」という仮説を立てました。

 反復と単語の羅列は、まさに目の前で起きている現象をその都度書き留めたもので、「ヴォイニッチ文字」とは、そのために筆者が開発した「速記文字」であるということです。