基本的にどのような言語でも、出現する文字の頻度に偏りが発生します。ある程度の文章量で使われる文字を数えると、欧文では「e」、和文では「い」(ローマ字表記ならa)が、最も多く使われます。それらを手掛かりにすることで、文章の一部の文字が何に置換されているのか、おおよその見当をつけることができます。

 頻度解析の手法は、得られる暗号文が長ければ長いほど信頼性が高まる手法です。ヴォイニッチ手稿ほどの文章量であれば、十分に信頼できる解析が可能であると思われました。

 しかしここで、過去多くの書物を解読してきた者たちに、2つの大きな壁が立ちはだかります。

(1)手稿が何の言語で書かれているかが不明であること。
(2)ヴォイニッチ文字における「1文字」が不明であること。

(1)に関しては、錬金術師たちが書物を残す際、主に用いていたラテン語が有力とされていました。

 仮に違っていても、同年代に書かれている書籍などの使用言語と順に照らし合わせていけば、追い追い判明するだろうと思われました。

(2)に関しては、多くの者たちが頭を悩ませました。『ヴォイニッチ手稿』は全編が流れるような筆記体で記述されているため、1文字単位に分解することが非常に困難だったのです。(たとえるなら、アルファベットの知識がまったくない人にとって、「m」と「rn」を区別することができるか、という問題に近い)

挿絵周辺の文字に注目した
アマチュア読解者の見解

 アメリカの弁護士にしてアマチュア・ヴォイニッチ研究家のジェームズ・マーティン・フィーリーは、この問題を次のような方法で解決しようとしました。

『ヴォイニッチ手稿』は数多くの挿画とともにその文章が書かれていますが、フィーリーはまず、挿画に沿うように書かれた文字を「キャプション」であると予想し、それを手掛かりに文字の解読を行ったのです。