体力や頭の回転の衰えも顕著になってきますから、「もう若い人には勝てない」「後ろから来た人たちに、どんどん追い抜かれていく」などと、ますます鬱屈していくというもので、このミッドライフ・クライシスが社会問題にもなりつつあります。

 しかし本来は、こうした時期にこそ、教養が役に立つのです。

 教養は「現在ただいま」の時間軸を超えて、過去から現在までの長い人類の歴史や営みに触れることで、自分を客観視できるものなのです。

 生きるとは何なのか、人生とは何なのか。若い頃には少しも思いを致さなかったこうした問いに、年を重ねてきたからこそ我がこととして向き合うことができるのです。

 古来より、古今東西の多くの人たちが生きることの意味や老いに直面してきました。そうして書き残してきた多くの古典や名著が世界にはたくさん存在しています。

 例えば『源氏物語』にだって、色恋の話だけではなく、老いて死んでいく登場人物の心の様が描かれています。また、聖書や宗教にも、死の恐怖から人間を救うためのヒントを見つけることができるでしょう。

自分の「第3の場所」
を得ることは大切

「自分は中年危機などに陥っていない」と考える人でも、「教養を身につけたところで、給料が上がるわけでもなし」と思って避けてしまうのはもったいないことです。仕事や家庭以外の別の面をもう一つ持つことで、社会や世界の見え方が変わってくるからです。

 会社での人間関係のほかに、別の面、例えば趣味でもかまいませんが、そうしたものを持つことで会社とは別の人間関係や世間が構築されます。

 仮に会社や家庭で嫌なこと、大変なことがあっても、もう一つの分野で救われる、心が軽くなるということもあるでしょう。

 第1の場所である家庭、第2の場所である会社に続く、第3の場所(サードプレイス)と呼ばれることもありますが、居心地のいい、もう一つの場所を持つことが、人生の充実度を高めるのです。

「ミッドライフ・クライシスなんて私にはまったく関係ありません」という人は、この第3の場所、もう一つの面をすでにお持ちなのではないでしょうか。