歩美さんが経緯を説明すると、医師はむっとした様子でまくし立てた。

「そこは無認証施設じゃないの?そういう所でNIPTをやってから、羊水検査のためにうちに来てもね、普通は断るんだよ!」

「羊水検査の後にどうするか知らないけど、中絶手術はうちではやらない。別のところでやって」

医師が怒りを
露わにしたワケ

 歩美さんは動揺のあまり、ほとんど言葉を発せられなかった。あたかも歩美さんが中絶手術を希望しているかのような、医師の言いぶりに腹が立った。

「なんでこんな人に、こんなことを言われなきゃいけないんだろう」

 歩美さんは内心そう思いながら、ぐっと堪えた。

「あの……」

 歩美さんが口を開きかけたところで、医師は、

「羊水検査は水曜の午後ですから」

 と検査の日時を指定し、診察を終えた。

 歩美さんは待合室の椅子に座ると、涙がこぼれ落ちた。一方的に決めつけられ、怒られたことが、ただただ悔しい。スマートフォンを取り出し、LINEで雄太さんに「もう嫌だ。羊水検査を受けたくない」と投げやりなメッセージを送った。

 そのとき、歩美さんの名前が呼ばれた。予約していた遺伝カウンセリングの順番が回ってきたのだ。しかし、なかなか涙が止まらなかった。

「どうしよう。こんな顔で現れたら、びっくりさせちゃうだろうし……。でも、もう呼ばれちゃったから仕方ない」

 小部屋に入ると、女性の遺伝カウンセラーが座っていた。優しそうな口調で、歩美さんはほっとして落ち着きを取り戻した。

 カウンセラーは歩美さんから事情を聴くと、

「最近、無認証でNIPTをやって、検査後に何もフォローしない無責任なクリニックが増えているから、先生は頭に血が上ったんでしょう」

 とフォローしていた。それを聞いても、歩美さんはもはやこの大学病院で羊水検査を受ける気にならず、検査の予約をキャンセルした。

生まれてくる子に
「大事だ」と伝えたい

 歩美さんは自宅に帰り、改めて、

「羊水検査は受けたくない」

 と告げた。雄太さんは、

「もう行かなくていいよ」

 と気遣った。

 夫婦に、羊水検査を受けずに中絶するという選択肢はない。それまで悩んでいた雄太さんも腹をくくり、子どもを産む方向に話が進んでいった。