「クラインフェルター症候群だとわかっていれば、子どもを授かりにくいのかどうかを調べて、先手を打てます。その時に、裕真がどう反応するかわからないけど、受け入れてくれるパートナーはいると思います」

 歩美さんは、NIPTをきっかけに早期にクラインフェルター症候群とわかったことは良かったと捉えている。心の準備ができ、子育てを見直すことができた。

「妊娠した当初は、この子をちゃんと育てないといけない、という気持ちが強かったです。どうやったら子どもの能力を伸ばすことができるのかと考えて、知育などの情報を集めていました。

 そのままならおそらく、子どもが幼いうちから教材セットを買い与えて、ガチガチの教育ママになっていたと思います。NIPTの後、子どもにとっては何より愛情がないといけないと気付いたし、ちゃんと育ってくれたらいいやと思えて。ちょっと肩の力が抜けました」

 一方、歩美さんには、NIPTに複雑な思いもある。世の中には、お腹の子にクラインフェルター症候群の可能性があるとわかり、医師から中絶の選択肢を示された人もいると知ったからだ。

 歩美さんはツイッター(現X)で、北陸地方に住む妊婦のアカウントから、ダイレクトメッセージを受け取った。その妊婦は、NIPTでお腹の子がクラインフェルター症候群「陽性」と判明し、産婦人科医から中絶を前提に話を進められてショックを受けた、と説明していた。

 その後に連絡が取れなくなり、彼女が出産したかどうかはわからない。ただ、

「NIPTを受けなかったら、問題なく出産できたのではないか」

 と感じている。

 実際に私たちの取材では、無認証施設のNIPTでクラインフェルター症候群とわかり、羊水検査後に中絶したケースもあった。

NIPTが広まることを
懸念する声も

 性染色体を対象にしたNIPTが広まることを、懸念する団体もある。クラインフェルター症候群などの当事者や家族をサポートしている、「日本性分化疾患患者家族会連絡会(ネクスDSDジャパン)」だ。

 代表のヨ・ヘイルさんによると、連絡会には数年前から、無認証のクリニックでNIPTを受けて、クラインフェルター症候群「陽性」となった妊婦から、相談が来ている。