NIPTの結果だけでは、本当にクラインフェルター症候群かどうか確実ではないものの、「この子が生まれてから、小児科で検査をすればいい」と頭を整理した。
それから、「子どものために何ができるか」を考えるようにした。
「この子は将来結婚せず、1人になるかもしれない。『ものすごく大事だよ』という思いを、自分たちが伝えたい。1人になっても大丈夫なように、いくらかの資産を残したい」
雄太さんは真面目な顔で、ぽつりぽつりとつぶやいた。
「そうだね」
歩美さんはうなずいた。心の中では、「雄太は決意したんだな」と受け止めていた。
1ヵ月間迷ったが、結論は出た。半年後の2019年7月に長男を出産した。愛くるしい表情に、「かわいいな」と素直に思えた。
1歳の誕生日を迎える頃、病院で検査を受け、正式にクラインフェルター症候群と診断された。
子が大きくなる前には
打ち明けなければ
2024年7月、記者は近況を尋ねるため、歩美さんにオンライン取材を申し込んだ。外資系IT企業で働く雄太さんの転勤に伴い、家族3人で米国に渡っていた。
パソコン画面越しに歩美さんが話し始めると、ふいに「ママ」と呼ぶ声が聞こえた。
5歳になった長男の裕真君(仮名)が、画面に割り込み、歩美さんの横に並んだ。黒髪がつややかな裕真君は、人懐こそうに笑っている。
慌てた歩美さんに促されて、すぐに別の部屋に移動したが、どこからどうみても元気そうな男の子だ。
裕真君は、日本の保育所のようなプリスクールに通っている。外では英語、自宅では日本語と使い分ける。父親の雄太さんは、米国の永住者カード(グリーンカード)を取得しており、米国滞在は長くなりそうだ。
歩美さんと雄太さんはまだ、クラインフェルター症候群について裕真君に伝えていない。幼いため、説明を理解することが難しいからだ。しかし、裕真君が大きくなる前には打ち明けなければいけない、と考えている。
理由の1つは治療だ。もし男性ホルモンの量が少ない場合、早期に男性ホルモンの補充療法を開始して、二次性徴を促す必要がある。
早期に知れたことで
心の準備ができた
もう1つは、パートナーとの関係だ。歩美さんは最近、あるニュースサイトの記事に目が留まった。その記事に登場する夫婦は、結婚してすぐに子どもを望んだものの、なかなかかなわなかった。夫が医療機関を受診したところ、クラインフェルター症候群だとわかり、人工授精で子どもを授かることができたという。