無認証クリニックが「専門病院に相談して」「インターネットで調べてください」と言うケースもあり、妊婦に対して丁寧な情報提供やカウンセリングを行っていないと考えている。
「クラインフェルター症候群の当事者に会ったことのない医師やカウンセラーが多くて、実際に当事者がどう生きているのかという生身の姿が伝わっていません」
「クラインフェルター症候群の症状ばかり羅列するインターネットのページを見ても、実際の当事者の姿がまったく想像できません。このことは、性染色体以外の検査項目についても当てはまる問題です」
連絡会は2021年3月、無認証施設でのNIPTが広まっている現状を踏まえて、国に要望書を出した。性染色体の変化で陽性となった人が適切な遺伝カウンセリングなどを受けられるよう、対策を求めたものだ。
要望書ではこう記している。
「(無認証施設で)X・Y染色体異数等が判明した場合、正しい情報の十分な提供と適切な遺伝カウンセリングが、どこでどのように行われるのかが、残念ながら不明確です。どこでも受けられなくなってしまうのではないかという大きな懸念があります」
「X・Y染色体異数を始めとする性分化疾患に対しては、社会全体はもちろん、一般の医療従事者の中にも未だに偏見が大きく存在します」

ヨさんはそもそも、クラインフェルター症候群をNIPTの対象とすることに、違和感を覚えている。
「クラインフェルター症候群は、具体的な症状が表れる人もいるので、『疾患』という言い方自体を否定するものではありません。しかし、『疾患』としてNIPTで調べることで、クラインフェルター症候群の当事者の存在自体が『疾患』『異常』というようなイメージが、広がってしまいます。
NIPTを巡る議論では、生まれてくる奇跡、生きていく大切さがなおざりにされています。人間の存在を軽んじる傾向があるのではないでしょうか。
国は少なくとも無認証施設によるNIPTの実態調査をして、法律で規制すべきです」
名前:原田啓之
肩書:社会部記者
略歴:2005年入社。くらし医療部で、新型コロナ対策やゲノム医療など取材。共著に『オシント新時代 ルポ・情報戦争』(毎日新聞出版)。
名前:村田拓也
肩書:宇都宮支局次長
略歴:2009年入社。松山支局、京都支局、大阪社会部、くらし科学環境部。警察や厚生労働省を担当。「8050」世帯の孤独死や新型コロナの自宅療養死など取材。
名前:寺町六花
肩書:くらし科学環境部記者
略歴:2018年入社。福島支局で福島第1原発事故の被災地を取材。現在、生殖医療や生命科学を中心に取材。
名前:熊谷豪
肩書:くらし科学環境部デスク
略歴:2002年入社。くらし医療部、長野支局次長。阪神・淡路や東日本の大震災、戦後補償を中心に取材。現在、医療を担当。