医師免許さえあれば
誰でも良かった?

 研修は、同じ系列のクリニックで1日だけ行われ、検査の流れを覚えた。妊婦への説明内容はクリニックのホームページも参考にして学んだ。

 その後すぐに診察を始めたものの、実務でまごつくことはなかった。クリニックが行うのは、医師の問診と、看護師の採血のみ。その問診は妊婦1人当たり5分程度で、資料を渡して、型通りの簡単な説明をするだけだった。

「だいたい検査の流れは決まってるし、説明することもそんなに細かくないしね」

 その時にどのような説明をしていたのかと記者が尋ねると、

「忘れちゃった」

「一番多いのはダウン症ですよね。ダウン症はエックス、エックス……忘れちゃったな」

 とぼんやりしている。

 記者が、

「ダウン症候群は、21番トリソミーですよね」

 と言うと、

「そうそう21番。当時は本を見ながら覚えたんだけど。アハハハ」

 と、あっけらかんと笑っていた。研修の際に、遺伝子疾患や婦人科に関する書籍を3冊ほど受け取ったというが、内容はうろ覚えだ。

 男性医師が行うのは採血前の問診のみで、検査後の妊婦にはノータッチだった。そのため、さほど専門的な知識を求められることもなかった。

 開設したばかりのNIPT専門クリニックの利用者は、1日5~6人程度と少なく、まったく妊婦が来ない日もあった。数ヵ月後、経営陣から「後任が決まった」と突然伝えられ、解雇された。

「まあ、『飾り』ですよ。クリニックを開設するのには医師がいるから」

 経営陣にとっては、医師免許さえあれば誰でも良かったのだろうと考えている。

美容皮膚科クリニックで
NIPTを行なう理由

 NIPTの仲介企業と連携するクリニックは、なぜか美容系が目立つ。

「心をときめかせながらきれいに」。東京・銀座の美容皮膚科クリニックは、白やピンクを基調にした華やかなウェブサイトに、こんなうたい文句をかかげている。

「美容注射」「脱毛」「アートメイク」などの施術を紹介する一方、NIPTも手がける。