取材を申し込むと、女性院長は当初渋ったものの、「電話でなら」ということで話を聞けた。
数年前、仲介企業からNIPTの採血を依頼された。問診して血液を採取し、郵送するだけで、1件当たり数万円の報酬が支払われる仕組みだ。
「陰性となって大丈夫だったら妊婦さんは安心するし、いいか」と考えて、引き受けた。
女性院長に遺伝医療の知識はなく、遺伝カウンセリングをしていない。
「うちは採血するだけだから、遺伝カウンセリングまで必要ないでしょう。産婦人科医は必要とか言うかもしれないけど、うちは産婦人科じゃないしね。
妊婦さんは自分たちでウェブサイトを見て考えて、NIPTを受けると決めてるからここに来てる。私があれやこれやと言うこともない」
無認証クリニックは
まるで検査の代行業者
依頼は月に3~4件くらい。まだ、ここでNIPTを受けて陽性となった人はいないという。院長には持論がある。
「出生前検査は『命を選ぶ』とか言われるし、正義漢ぶって中絶を止めた方がいいと言う人もいるかもしれない。だけど、NIPTを受けるか受けないか、中絶するかしないかは、本人が決めればいいことだと思う」
本来、産婦人科は母親と胎児の命に直結する専門的な分野だ。大学病院や総合病院で専門研修を受けた、産婦人科専門医の資格を持つ医師が多い。
ところが、無認証施設の関係者に取材すると、多くがこの銀座のクリニックのように、型通りの説明と採血しか行っていなかった。検査結果は仲介企業がオンラインで提供し、医師が羊水検査やお産までフォローしているところは少ない。
そのため、無認証施設でNIPTの採血を行うだけなら、産婦人科の知識がなくてもこなせてしまうのだ。
また、日本では、医師免許さえあれば、基本的にどの分野の診療でも手がけることができる。クリニックを開業する際に、どの診療科目でも自由に標榜(ひょうぼう)することができるのだ。