認証制度はあくまで学会の自主ルールに基づくため、法的根拠はない。無認証での検査を止めることもできない。

 NIPTをビジネスチャンスと捉えた企業などが次々に参入し、全国の診療所に「クリニック売上向上のご提案」といった資料を送って勧誘した。

 採血をするだけの美容皮膚科や内科のクリニックが一気に増え、無認証施設の数は瞬く間に認証施設を追い越した。

国が関与する
新たな認証制度が発足

 取材班が2022年6月に、インターネットなどで調べた際には、無認証施設は全国で182あった。

 保健所への届出などの情報に基づいて診療科を分類すると、美容系(美容皮膚科・美容外科・美容内科)89、内科89、皮膚科54、形成外科42の順に多く、産科・産婦人科は10だけだった。

 その多くがインターネット広告や、イラストを駆使したわかりやすいウェブサイト作りに注力していた。

 急成長したあるクリニックのグループは、事業収益が2018年11月期の4億4810万円から、2021年11月期の23億6598万円へと膨れ上がった。たった3年間で5倍になった計算だ。

 埼玉県の皮膚科クリニックからスタートし、今では全国で10以上のクリニックを直営しつつ、100前後の医療機関と連携してNIPTを手がけている。

美容皮膚科で出生前検査?「命を扱う検査」を取り巻く危うい現実『出生前検査を考えたら読む本』(毎日新聞取材班 新潮社)

 こうした状況を問題視する研究者らが働き掛け、2022年7月に、国が関与するNIPTの新たな認証制度が発足した。

 これまで妊婦が身近でNIPTを受けられる認証施設が少なかったという反省から、中小病院やクリニック向けに要件を緩めた「連携施設」枠を設けた。すると、認証施設の数は大幅に増えて、無認証施設と再逆転した。

 ただ、無認証施設が拡大の勢いを失ったわけではない。

 仲介企業は地方のクリニックを中心に営業活動を続けており、その数は再び認証施設に迫ろうとしている。

【毎日新聞取材班メンバー】
名前:原田啓之
肩書:社会部記者
略歴:2005年入社。くらし医療部で、新型コロナ対策やゲノム医療など取材。共著に『オシント新時代 ルポ・情報戦争』(毎日新聞出版)。

名前:村田拓也
肩書:宇都宮支局次長
略歴:2009年入社。松山支局、京都支局、大阪社会部、くらし科学環境部。警察や厚生労働省を担当。「8050」世帯の孤独死や新型コロナの自宅療養死など取材。

名前:寺町六花
肩書:くらし科学環境部記者
略歴:2018年入社。福島支局で福島第1原発事故の被災地を取材。現在、生殖医療や生命科学を中心に取材。
名前:熊谷豪

肩書:くらし科学環境部デスク
略歴:2002年入社。くらし医療部、長野支局次長。阪神・淡路や東日本の大震災、戦後補償を中心に取材。現在、医療を担当。