ソファーには、落ち着いた雰囲気の夫婦が座っていた。私たちに顔を向け、会釈する。東京都内に住む妻(43歳)と夫(43歳)で、あらかじめ川端医師を通じて取材の許可を得ていた。
なるべく平易な言葉で
わかりやすく伝える
夫婦と向かい合うように、川端医師と病院の遺伝カウンセラーが腰掛けた。新型コロナウイルス感染症への対策が強化されていた時期で、4人ともマスクを着けており、表情は読み取りにくい。
「体調大丈夫?午前中は赤ちゃんを見せてもらって元気そうで良かったです」
川端医師が笑顔で語り掛けると、夫婦は緊張気味にうなずいた。遺伝カウンセリングに先立って、通常の産科の診察を行い、母子の健康状態を確認していた。
妻は第2子を妊娠したばかりだった。第1子の出産では出生前検査を受けておらず、もともとNIPTのことを知らなかった。最近、地元のクリニックを受診した際、高齢の医師から「年齢的に受けた方が良いよ」と勧められたという。
その話を聞いた川端医師は、
「NIPTは赤ちゃんの病気の一部がわかる検査であって、全部の病気がわかるわけではないからね」
と前置きして、手元のファイルをめくる。「染色体・遺伝子・DNA・タンパクの関係」というタイトルのページで手を止め、夫婦の前に差し出した。
細胞と染色体の構造の説明から始まり、染色体の変化で生まれつきの病気になること、NIPTで調べるのはダウン症候群など3項目であること。
日本の高校は「生物」が必修でなく、遺伝子やDNAの基礎知識を持っている人が少ない。川端医師は遺伝カウンセリングで、一般の人にも理解してもらえるように、なるべく平易な言葉で、わかりやすく伝えることを心掛けているという。
さらに、ダウン症候群の当事者の発育上の特徴と、成人になった後の生活状況、NIPTの仕組みと検査の流れと、解説は続いていった。