野口:アメリカに行くまでの期間は、日本にいてデスクワークをするのが主な業務でした。時々、訓練という名目でヒューストンに行ったり、サバイバル訓練のようなものに参加したりということもありましたが、それでもやはりヒューストンやロシアで訓練漬けだった以前の生活とはまったく違います。

 その頃の僕は、まさしく不完全燃焼という感じでした。次に宇宙に行くという目標も当然あるはずなのですが、どうにも気持ちがそこに向かってはいない感じでした。おそらく、それがよくなかったのでしょう。

全速力から突然の
アイドリング状態に戸惑い

大江:それまで全力でミッションに挑んでいらしたのが、いきなり不完全燃焼の状態に陥ったということですね。

野口:はい。そうした感覚が、おそらく心を徐々にむしばんでいくのではないかと思います。スポーツ選手が現役を引退する時も似ていると想像しますが、完全にスパッと何かのキャリアを辞められる人は少ないのではないでしょうか。うまく乗り切れる人もいるのでしょうが、僕はそうはいきませんでした。

 本当はフルスロットルでレースを走りたいと思っているのに、時々そういう環境に行ってちょっと走っては、また普通の生活に戻る。全速力で走ってきた生活から急にアイドリング状態になって、そのアイドリングが長くていつまで続くかわからない。そんな生活に不完全燃焼感があったのかもしれません。

大江:そこまでがあまりにも全速力だったため、変化が大きすぎたのかもしれませんね。しかもそのアイドリング期間は、次に誰が飛ぶかということも含めて、本当に自分の力だけではどうしようもないことですよね。宇宙飛行士なら誰でも飛びたいという思いがおありでしょうし。

野口:それもはじめのうちは気にせずにいられたのですが、ひと回り、ふた回りやったところで、そんな現状もしっかり理解しないといけなくなってきたということだと思います。おそらく、すぐにでも飛びたいという気持ちが大きかったのだと思います。大きく構えてその日をじっくり待つというほど人間もできていなかったのでしょう。

大江:そんな時、心の内を相談できる先輩方はいなかったのでしょうか。