「自分ならやり遂げられる」という気持ちがあってこそ  

 困難な目標を立てるだけでは、成果につながらないこともある。目標が高すぎると、かえってやる気を失わせることがある。

 ここで大事になるのが、自己効力感(self-efficacy)とフィードバックという2つの考え方だ。

 自己効力感とは、「自分なら難しい目標をやり遂げられる」という感覚のことだ。自己効力感が高ければ高いほど、目標にも挑戦しやすくなる。また、フィードバックとは、目標に対して今どれくらい進んでいるかを知らせる情報のことだ。進捗を把握できると、努力の方向を修正したり改善したりできるようになり、目標達成に近づく。

 難しい目標を掲げるだけでは足りず、2つがそろってはじめて現実の成果につながっていく。

 前述のロックとレイサムの研究では、高い目標を設定したところで、自分に達成できるという気持ちがなければ、努力が続かず、成果も出にくいとされている。論文で紹介されている多くの調査では、自己効力感の高い人ほど、高い目標を自分で選び、あきらめずに取り組む傾向が強いことが何度も示されてきた。

 自己効力感は、生まれつきのものではない。上司やリーダーの働きかけによって育つ。過去の成功経験を思い出させたり、うまくやっている人の例を示したり、必要な訓練を与えたり、自信を持てるように言葉をかけたりすることで、少しずつ「自分にもできそうだ」という気持ちが芽生えてくる。

 稲盛氏が、創業期に困難な注文に向き合った姿勢は、まさに「自己効力感」を土台とした判断である。顧客から無理難題を叱責された場面で、稲盛氏は次のように答えている。先ほどの引用に続く一節だ。

《その心意気を買って欲しい。もし最初に断ればそれでおしまいになってしまいます。おっしゃる通り、納期には間に合わなかったこともありますが、多少遅れても、結局つくりあげてお納めしております。我々のこの熱意と努力を酌んで欲しいのです」と答えた》