どの社が何を撮影したかを戒厳当局に把握されないよう、映像素材は各社が助け合いながら中国の外に持ち出し、お互いにどのテレビ局が撮影したかを明かさないまま世界に配信することもよくあった。スペインテレビが天安門広場で独自取材した映像の一部も、出所が明かされないままいつのまにか世界中のテレビで放送されていた。
対峙前から回るカメラが捉えた
もう1つの天安門事件
筆者は今回、新発見をすることになった映像をCNNのインターネットサイトで発見したが、調べてみると他のテレビ局やインターネットサイトでも使用した痕跡があり、使いまわしにされていた可能性もある。ただ、多くの場合は戦車男と戦車とが対峙してからの部分のみが使用されることが多く、これまでなかなか気づけなかった。
今回、新事実が浮かび上がった映像を撮影したカメラマンは当初、そのあと戦車男が登場することなぞ知る由もなく、ただ単に天安門広場から戦車の列が出てきたことからカメラを回し始めたと思われる。

その映像によると、戦車の縦隊は中国の交通規則である右側通行を遵守し、当初、道路中央からやや外側に離れた右側5車線中の第2車線付近を東側に直進して来た(写真1)。
すると例の戦車男が、南側の脇から北方向に道路を直角に横断歩道に沿うようなコースで登場し、道路の中央付近で立ち止まった。戦車の縦隊からは100メートル以上離れた位置だった。
戦車は男を避けないどころか
むしろ向かっていった
驚いたのはそのあと。戦車縦隊の先頭車両が、戦車男が姿を現した直後から道路中央寄りに舵を切り、車線を2本もまたいでどんどん道路中央にいる戦車男に近づいていたのだ(写真2)。