考え、迷い、また考え、また迷う――働き始めた新卒社会人に伝えたいこと

新卒者の就職活動における、早期化・長期化の傾向が強まり、多くの学生が、将来の就職先や仕事を意識して学業に向き合うなか、関西の総合大学に、雇用や労働について専門に学ぶ学科がある――同志社大学社会学部産業関係学科。「働くこと」をさまざまな角度から研究するユニークな学科として、企業や行政機関からも注目され、卒業生は、人事企画部門をはじめ、さまざまなフィールドで活躍している。企業の入社内定者向け媒体「フレッシャーズ・コース2026」にも出演し、雇用や労働にかかわるテーマに取り組む浦坂純子教授(同志社大学社会学部産業関係学科)に、同志社大学・新町キャンパスで話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

就活する学生と採用する企業の「一期一会」の難しさ

 浦坂教授の著書『なぜ「大学は出ておきなさい」と言われるのか――キャリアにつながる学び方』(*1)は、出版から16年の月日が経つが、いつ読んでも色あせない内容になっている。学生の心情に寄り添い、時に優しく、時に厳しく、働くことの意義を伝える“浦坂節”が印象的な書籍だ。そんな浦坂教授に、まず、近頃の卒業生(同志社大学社会学部産業関係学科卒)と就職先の様子を聞いた。

*1  『なぜ「大学は出ておきなさい」と言われるのか――キャリアにつながる学び方』(浦坂純子著/2009年1月刊/ちくまプリマー新書)

浦坂 とても優秀で、社会に出たらきっといい仕事をするだろうと思って送り出した学生が、働き始めてしばらくしてから研究室を訪ねてくるケースが割とあります。何かあるんですよね。話を聞いてみると、案の定、「仕事がしんどい」と。期待されているがゆえに、新人がやるような仕事ではない業務を任されているパターンが多いようです。元来、彼ら彼女らは真面目なので、何とか対応しようと努力するのですが、だんだん行き詰まって、早い段階で休職や転職に至ることもあります。決してメンタル的に弱いわけではなく、職場でじっくり育ててもらえれば大きな戦力になるはずなのに、いまの職場はそんなに余裕がないのかと愕然とします。新人が難しい仕事にやりがいを感じたとしても、職場での適切な支援やフォローがなければ、結果的に潰れてしまう。上司や先輩社員も自身の業務で手一杯なのでしょうし、人事の方も業務の幅が広がっていることもあって、新人の育成が手薄になりがちなのかもしれません。人手不足の折から、非常に残念で、もったいない状況です。

 退職代行、ゆるブラック、配属ガチャ――令和の新入社員を取り巻くワードがメディアを賑わせているが、就職活動や就労意識において、世代の特徴はあるのだろうか?

浦坂 「Z世代のことはよく分からない」「叱ったら辞めてしまうのでは?」――上司や先輩社員、人事の方は、いまどきの新人に対して、そんなふうに構えてしまいがちです。確かに、私も学生たちと接していて、一見つかみどころがないようにも思えるのですが、彼ら彼女らの考え方や行動は、他の世代とそこまで極端に変わらない気がします。実際、Z世代ど真ん中の学生が、そんな卒業論文を書いて主張していましたし。世代の特徴というよりも、個人差が大きくなっている印象を受けます。就活に関しては、あらゆるメディアが好き放題に発信をしているので、学生たちが情報過多になり、「こう言ったほうが相手に響くのでは?」などと考えすぎて自滅してしまうこともあるようです。等身大の自分を信じて、それをそのまま表現することができればいちばんいいのですが。

 そうした学生たちと企業の人事(採用)担当者・面接官の「一期一会」の難しさを、浦坂教授は憂う。

浦坂 コミュニケーション能力が高いと言いますか、実質がさほど伴っていなくても、自分を要領よくアピールできる学生がいくつも内定を得る一方で、真面目で実力もあるのに、面接などでその実力を十分に発揮できず、望む結果が出ない学生もいます。もちろん、要領のよさや器用さも仕事をするうえでは有用な能力ですが、時間を少しかけなければ見えてこない長所を持った学生も大勢います。人事の方には、学生の「素の部分」をしっかり見極めていただいて、組織を支えていくために必要な人材を判断していただきたい――教員である私は、そうした企業に、手元で成長を見守ってきた学生を託したいです。

考え、迷い、また考え、また迷う――働き始めた新卒社会人に伝えたいこと

浦坂純子  Junko URASAKA

同志社大学社会学部産業関係学科教授

大阪府生まれ。大阪市立大学卒業。大阪市立大学大学院経済学研究科博士課程修了。労働市場の流動化を背景に、労働者が生涯にわたってさまざまな移動を繰り返しつつ持続的にキャリアを形成する過程を、学校、企業、創業などのキャリアステージを拠点に分析し、社会における適材適所の達成を研究している。著書に、『なぜ「大学は出ておきなさい」と言われるのか――キャリアにつながる学び方』『あなたのキャリアのつくり方――NPOを手がかりに』(共に筑摩書房)がある。