とくに、介護報酬が低く抑えられているため、介護従事者の賃金は低水準にとどまり、人材の確保も難しい。それにより介護の質の低下やサービス提供の限界につながっている。結果として、介護保険制度は機能不全に陥りつつあり、深刻な介護人材不足や財政的な破綻の危機に直面しているのだ。

 介護保険制度は当初の理念とは裏腹に、多くの矛盾と限界を抱えている。サービスの利用抑制や保険料の負担増により、介護が必要な人々が適切な支援を受けられない状況が生まれている。

 このままでは、高齢者のみならず、その家族や介護従事者、さらには社会全体に負の影響が及ぶことは避けられない。

 11兆5139億円――。これは厚生労働省が2024年9月に公表した、2023年度の介護費用だ。介護費用は、介護保険からの給付や利用者の負担を含めた額で、2023年度は前年度と比べて2.9%増え、過去最高を更新した。

 この額がどれほど大きいかといえば、2023年度の日本の国家予算が約114兆4000億円であったことを考えると、その10%近くにもなるのだ。

 また2024年度の防衛費の予算が約7.9兆円という規模であることからも、介護費用がいかに巨額かイメージできる。

 今後も介護費用は増加していくと見られており、もはや介護費といわれる公費が出ていくことに歯止めがかからない状況だ。

介護施設でカラオケがしたくて
「重度要介護者」と偽る高齢者も

 私の手元に2分弱の動画がある。動画には、ピンク色の介護服を着た女性介護職員と、初老の男性がカラオケをしている様子が録画されている。これはある介護施設で録画され、施設の関係者が私に提供してくれたものだ。

「この動画はうちの施設にあるカラオケルームで録画したものです。男性は、こんなにお元気なのに要介護3なんです。おかしいと思いませんか」