
仕事の同僚関係でも、パートナー関係でも、友人関係でも、最初はあんなに熱意や思いやりがあったのに、今はその当時のようにふるまうことが難しい。そんな経験は多かれ少なかれ誰にでもあるだろう。ものごとをありのままとらえようと試みる「現象学」を専門とする哲学者が、「やさしいがつづかない」メカニズムを解き明かす。 ※本稿は、稲垣諭『やさしいがつづかない』(サンマーク出版)の一部を抜粋・編集したものです。
やさしさはむしろ
見知らぬ人に発揮できる
あなたが「やさしいがつづかない」と悩むその相手は、どんな人でしょうか?
それは見知らぬ人だったりしますか? おそらく、そうではないと思います。むしろ一緒に働いていたり、長く付き合いがあったり、生活を共にしていたりする相手なのではないでしょうか。つまり同僚や友人、身内、親族です。
これは一見すると、私たちの日常的な直感に反しています。というのも、私たちは身近な人には深い共感や同情ができ、彼らにこそやさしくできるはずだと思い込んでいるからです。
でも、どうやらそうではないのかもしれません。「親しき仲にも礼儀あり」という格言があるように、むしろやさしさは見知らぬ人には発揮できても、身近な人には難しくなってしまうものなのではないでしょうか。
そのことを裏づけるように、殺人事件の多くは、見知らぬ人ではなく、友人やパートナー、親族といった身近な人々の間で起こっています。ニュースなどでは、どちらかというと通り魔的な事件や無差別的な犯行のほうが注目され、取り上げられやすいので、世間がもつ印象は違うかもしれません。