なぜそうなのか?夫婦が別姓になると明治から続く日本の伝統が変わってしまう。それはどうしても受け入れられない。政治の世界でコメが日本社会の根幹として聖域なのと同じで、家族制度も社会の根幹であるから変えるべきではないと保守的な政治家が考えているのです。

 さて、私たち経営コンサルタントの世界では、この記事で取り上げているような問題構造のことをトレードオフ(二律背反)と言います。どちらかをとると、もう片方をとることができない状況を指す言葉です。

 その言いまわしで言えば、夫婦の選択的別姓と、少子化問題の解決はトレードオフの構造にあります。そして今起きていることは、夫婦の選択的別姓は採用したくないことから、少子化問題は解決しなくてもやむなしと政治家が判断している様子です。

 こども家庭庁のトップに保守派の重鎮というべき政治家が配置されているのは、社会を変えたくないという強い意志を感じさせます。

 さて、これでは膠着状態ですね。どうすればいいでしょうか。

 この記事で紹介したグラフをよく眺めてみてください。日本よりも出生率が高い先進国はいくらでもあります。保守派の皆さんには、バナナの上側の国々の制度をひとつひとつ研究して、他の方法と比べてみてはどうでしょう。

 先進国で圧倒的に出生率が高いイスラエルのように、国民が常に国家存続の危機感を持つ状況は有効かもしれません。フランスは出生率が1.66ですが、同性婚夫婦でも養子を持てるなど家族のあり方が日本よりもずっと多様化しています。イスラムの国々ではUAE以外は少子化に困っている先進国はありません。理由は何でしょうか?

 そういった要因をひとつひとつ検討していけば、どうでしょう。他にとれる選択肢の中で比較すれば、選択的夫婦の別姓が保守派には一番呑みやすい少子化対策だと思えてきませんか?

 トレードオフとはいえ少子化と夫婦同姓とどちらが国家としての課題として大きい問題なのかは、政治家の立場で考えると答えは明白です。結婚することで発生する女性の大いなるストレスが解消され、家族が壊れるのではなくむしろ家族の数は増えるように考えられます。この先の国会ではどう議論されることになるでしょうか。