ミシュランガイド掲載の
フランス料理店も鰻を重宝するワケ

 さて、ここで鰻を扱うファインダイニングにも注目したい。鰻は日本料理店で会席の一部として、そしてフランス料理店でもさまざまなスタイルで提供されている。

 ミシュランガイド1つ星の「西麻布 野口」では、締めの一品で出す鰻丼が好評だ。京都のミシュランガイド3つ星の「未在」出身の店主が腕をふるう銀座「虎あら」や、六本木の個性的な名店「三宅輝」では、鰻を中心にコースが構成されている。

 フランス料理でも各店が、鰻を名物料理にして競演する。パレスホテル東京「エステール by アラン・デュカス」の「高知県大月町備長炭で焼き上げた鰻 野菜とキノコ クレソン」、銀座の名フレンチ「アピシウス」の「鰻のパイ包み焼き ポルト酒風味」、フランス三つ星シェフの小林圭氏がプロデュースする「ESPRIT C. KEI GINZA」の「鰻の炭火焼き 生山葵」が挙げられる。

 鰻は日本人にとって特別な高級食材であるだけに、ファインダイニングとの相性がバツグンなのだ。

鰻は外食ビジネスの最新事情や
消費者の価値観を反映している!

 鰻を食す文化は、奈良時代の万葉集にも登場するほど古い。江戸時代には調理法として蒲焼きが広まり、香ばしいタレと炭火の香りが漂う屋台は江戸の名物となった。夏のスタミナ食としての地位を確立し、「土用の丑の日=鰻」のイメージが定着していった。ちなみに、鰻の旬は天然であれば脂がのる冬だが、養殖では需要に合わせた夏となっている。

 鰻の魅力は何と言っても、脂のりと旨味、ふわっとした食感だ。蒸し、焼き、タレ付け工程のひとつひとつに熟練の技が求められ、職人の個性と手仕事が感じられる料理として、日本人の「ごちそう」であり続けている。栄養価が高く、高齢者が食べやすいことも人気の一因だ。

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 チェーン店の鰻は、品質が一定以上に保たれ、タレは万人向け、オペレーションもマニュアル化されている。徹底的にクオリティにこだわった鰻専門店と客単価が5倍以上も違うことを考えると、比べること自体がナンセンスだ。

 鰻の食べ方も多様化が進んだ。誰と、どこで、どんな目的で食べるのか。選択肢が広がったおかげで、体験価値はひとつではなくなった。家族と手軽に、ひとりで贅沢に、あるいは文化や伝統を味わうために、それぞれにふさわしい一皿があるので自由に楽しめばいい。

 こう考えると鰻は、外食ビジネスの最新事情や消費者の価値観を、写し鏡のように表している。土用の丑の日は、各人が最も満たされる鰻を選んで食べてほしい。