一方、輸入の仕事では英国製、イタリア製の紳士服地を扱う。紳士服地のビジネスは商社だけで行うものではなく、生産者から小売りまでが一続きの規定ルートとなっていた。商社はルートのなかで輸入と、問屋、小売店への販売を業務としていた。

 商品の紳士服地を生産するのは海外の生地メーカーだ。そして海外メーカーが作った生地を商社に紹介するのが生地エージェント(繊維商)である。商社は紹介された生地を輸入して、主にラシャ屋へ営業する。

 ラシャ屋とは紳士服地を切売りする卸商のこと。生地を毛織物メーカーなどから反物単位で購入して、反物をテーラーやアパレルメーカーの注文に応じてスーツ1着分などにカットして卸販売している。ちなみに紳士服地の1反の長さはおよそ50メートル。スーツにすると20着分だ。

 ラシャ屋の仕事量は多い。各テーラーやアパレルメーカーからの注文を受け、それぞれの店に送るために生地を裁断して包装して発送する。生地は柄、種類が多種多様にあるから春夏物、秋冬物など生地の切り替えがある時はてんてこ舞いの作業となる。

真面目すぎるゆえに
他の営業マンから嫌われた

 紳士服地の流通は複雑だ。それぞれの役割を整理すると、次のようになる。

1、海外生地メーカー(ブランド)
商品提供者。生地エージェントには、商社の輸入額に応じた口銭(相場は7%程度)を払う。

2、生地エージェント(繊維商)
海外生地メーカーと商社の仲介役。商社が購入したら、輸入額に応じた口銭をメーカーから貰う。生地メーカーのサンプルを持って商社と一緒にラシャ屋へ営業する。

3、商社
生地エージェントから紹介された生地を輸入してラシャ屋へ売り込む。

4、ラシャ屋(卸商、問屋)
商社から買った生地を紳士服の仕立屋であるテーラー、百貨店の紳士服売り場、アパレルメーカーに販売する。

5、テーラー/アパレルメーカー
ラシャ屋から買った生地でスーツ等の製品を仕立て、消費者に売る。

 営業マンとしての岡藤の仕事は、生地エージェントと一緒にサンプルを持ってラシャ屋へ売り込むこと。ラシャ屋へ行くことが日課だった。