
米エヌビディアの時価総額が史上初となる4兆ドル(約588兆円)を突破した。韓国SKハイニックス、台湾TSMCの業績も好調だ。一方、サムスン電子は減収減益で半導体ファウンドリー事業は赤字続き。明暗を分けた要素は何か。他方、日本企業のAIへの意識は低く、このままでは「AI後進国」まっしぐらである。何が不足しているのか。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
日本がサムスン電子の危機感を教訓にすべき理由
7月8日、韓国最大の企業であるサムスン電子は、4~6月期の連結決算の速報値を発表した。1年半ぶりの減収減益だった。業績悪化の主たる要因は、AI(人工知能)分野への対応の遅れだ。
世界の大手IT企業の間では、AI事業によって業績の明暗が鮮明になっている。画像処理半導体(GPU)分野で独走状態にある米エヌビディア、その要求を満たした広域帯メモリー(HBM)を開発した韓国のSKハイニックス、両社の受託製造ニーズを取り込んだ台湾積体電路製造(TSMC)の業績は好調だ。対照的に、サムスン電子はHBMの良品率向上の実現が難しく、ファンドリ―事業も赤字が続いている。
中長期的にAI関連分野の成長期待は高い。AIは世界経済の牽引役であり、今後もそのトレンドは続く。そうした見方から、米中に続き、欧州や中東でもAIインフラの整備が急速に進み始めている。
AIチップ需要の拡大に対応するためにサムスン電子はHBMの性能向上に取り組みつつ、「IGZOメモリー」と呼ばれる次世代DRAMの研究開発体制を急速に拡充している。サムスン電子経営陣は、AIへの対応の遅れに危機感を強めている。
これは、わが国の企業にとって非常に重要な教訓だ。有力企業であるサムスン電子ですら、AI対応に遅れまいと焦っている。しかし残念ながら日本には、サムスン電子と互角に競争できる半導体、デジタル家電企業すら見当たらない。この状況が続くと、日本の「AI後進国」ぶりが深刻化してしまう。日本がAI関連分野の変革、成長に対応するには、どうすればいいのか。