
NHKでの“サラリーマン”生活に終止符を打ち、55歳でフリーランスとなったアナウンサーの武田真一さん。NHK時代から、「情報を正確に、安定して届ける」ことを自らのミッションに据え、派手さや自己主張よりもチームとしての成果を優先してきたが、新境地にあってもその姿勢は変わらない。「過去の経験から導いた“理想のチーム”にこだわるより、想像もつかなかった人材との出会いを楽しみ、チャンスととらえたい」――そう語る武田さんに、組織における自らの在り方や、チームビルディングのヒントについて聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
組織内では自分に与えられた役割をまっとうすることが大切
新卒で入局したNHKで33年間を過ごした武田真一さん。新人時代は、とにかく「チームワーク」を意識する場面が多かったと語る。
武田 入局後に、まず叩きこまれたのがチームワークの大切さでした。新人時代、リポーターとしていろいろな場所に行き、取材とリポートをしましたが、当然ながら、失敗もして、怖い先輩にしょっちゅう叱られていました。たとえば、「鬼の編集マン」と呼ばれていた大先輩から「ロケの前には必ず構成表(取材要素を記した想定台本)を見せろ」と言われていたのを忘れてしまい、ロケ終了後に取材したテープだけを渡したら、大目玉を食らいました。編集者も、本当は現場に行きたいんですよね。熱意がある人ほど、(映像の)素材を機械的につなぐような仕事はしたくない。だから事前に「こんな絵(映像)がほしい」と伝えることで、取材者に自らの思いを託すわけです。アナウンサーもまったく同じで、記者が書いた原稿をただ読むのではなく、チームの一員として最初から制作にしっかりコミットし、関わる人たちの思いを受け取ったうえで、本番に臨むべきなのだと学びました。
大きな組織のなかにいると、「自らの役割や存在意義は何なのか?」と迷う人もいる。周りの人たちに埋もれないために、個性を磨こうという考えも出てくるだろう。しかし、武田さんは「アナウンサーとして個性を出そうとは、あまり考えていなかった」と語る。
武田 自分に与えられた役割をまっとうするほうが重要だと考えていましたね。私はアナウンサーという役割でしたから、とにかく「情報を正確に、安定して届ける」ことを自らのミッションとしていました。
たとえば、ニュース1本を1分20秒ほどで読むとして、その限られた時間で複雑な情報をわかりやすく伝えることは、実はとても難しい作業です。一度でも言いよどんだり、間違ったりすれば、時間切れで情報は伝えられません。また、自分の個性を前面に出し、派手な格好や独特の言い回しをしていると、視聴者がニュースに集中できなくなります。ニュースでは、水道管を流れる水のようにスムーズに情報を伝えるのが肝要で、アナウンサーは、いわば“堅牢な水道管”であることを求められます。私は、その役割を意識しながら自分のミッションに向き合うことで、組織内での役割や存在意義については、迷いがなくなったと思います。
一方で、ニュースの内容に対し、何も感じないわけではありません。アナウンサーの前に置かれた原稿の裏には、人々のリアルな人生や生活があります。いつも、その重みを感じ、時に戸惑い、時に悲しみながら、それでもニュースを読むわけです。そんな感情も必ず伝わるはずだと私は思っていて、心を乗せて情報を伝える努力をしてきました。そのようにして、NHK時代につくったこだわりは、フリーランスになってもまったく変わりません。

武田真一 Shinichi TAKETA
アナウンサー
1967年、熊本県出身。筑波大学第一学群社会学類(現:社会・国際学群社会学類)卒業。1990年、NHK入局。地域局時代から報道畑を歩み、1999年に東京NHK放送センターへ異動後は「NHKニュース」を担当。その後、「NHKニュース7」や報道ドキュメンタリー番組「クローズアップ現代+」のメインキャスターを務める。2021年には大阪放送局へ異動し、「列島ニュース」などを担当。2023年に33年間勤めたNHKを退局し、フリーアナウンサーに。同年4月より日本テレビ系「DayDay.」のMCを務めるほか、バラエティ番組、ドラマへの出演など、活動の幅を広げている。26卒(2026年3月卒業予定者)向けのメディア「フレッシャーズ・コース2026」の「The Life」コーナーにもインタビュー出演している。