理想像を追い求めるのではなく、偶然の出会いを楽しむ

 NHK職員時代も、フリーランスとなった現在も、「チームをまとめる」という役割を担う武田さん。まとめ役として心がけていることを聞くと、偶然に集まったメンバーとの出会いをまず楽しみ、それぞれの能力をいかに引き出すかを、常に考えているという。

武田 チームのメンバーには、本当にいろいろな人がいるもので、必ずしもスーパースターだけが集まっているわけではありません。スキルも、仕事に対するモチベーションも人それぞれです。マネジメントをする際、「チームのメンバーに恵まれない」と愚痴をこぼす人は私の周りにもいましたが、それを言っても何も始まりません。結局のところ、まとめ役がやる仕事は、一人ひとりの良さや能力を活かし、チームとしてのパフォーマンスを上げること――これに尽きます。

 私がそのために意識しているのが、メンバー一人ひとりへの声掛けです。能力を見極めるうえでは、言うまでもなくコミュニケーションが欠かせません。また、ほんのちょっとした声掛けであっても、それを続けることで「この人は私を見ていてくれる」と感じてもらえれば、それが心理的安全性につながり、信頼感が醸成されていきます。そんな状態をチーム内につくれると、仕事の成果が高まるのは間違いありません。現在、MCを務める際にも、縁あって集まったメンバーたちとどうコミュニケーションをとり、どのように能力を活かすかを、ひたすら考えています。

 そんな武田さんが、いま、企業の人事担当者に伝えたいことは?

武田 「自分の組織にはこんな人がふさわしい」という考えがあまりに強すぎると、採用にあたって「良い人材になかなか恵まれない」と感じるケースが多くなるでしょう。個人的には、組織が求める理想の人材というのは実は固定観念にすぎないと思っています。時代は常に移り変わり、新たな価値観の世代が続々と世に出てきます。そんななか、過去の経験から導いた理想の人材像にこだわるより、想像もつかない人材との出会いをむしろ楽しみ、それをチャンスととらえるほうが、うまくいくのではないでしょうか。

 思いがけない偶然や発見を指す「セレンディピティ」という言葉がありますが、人事は出会いのセレンディピティの醍醐味を味わえる、最たる部署のひとつかもしれません。過去の固定観念に縛られることなく、新たな出会いを楽しんでほしいですね。