テクノロジーを企業の競争力に直結させる環境整備

 DXに欠かせないデジタル技術の活用にあたっては、日頃から最新テクノロジーの動向に目を配りながら、自社のビジネスに最適な形で導入・活用していく取り組みが欠かせない。それにはまず、新たなテクノロジーをビジネスの視点で正しく評価する仕組みと、実際の活用につなげていくための体制が必要になる。これを実現できているかどうかが、そのまま企業の競争力に直結すると言っても過言ではない。

 そのためにも、専門知識を持つ人材と彼らの能力がフルに発揮できる環境整備が不可欠である。

 では、日本企業の現状はどうだろうか。IPAが公開した「DX白書2023」(図00-05)によれば、競争力強化に必要なIT環境の整備を十分に達成できている日本企業は、全体のわずか5%程度だという。これに「なんとか達成できている」を含めても20%前後にとどまっており、日本企業の約8割がIT活用においてさまざまな課題を抱えていることがわかる。

 一方、米国企業の約60%はこの目標を達成しており、それが日本と米国の競争力格差の要因の一つと考えられる。近年、日本でも特定の技術や専門分野における優秀な人材や知見を集約する「CoE(Center of Excellence)」、その一例である全社的なクラウド活用を推進する「CCoE(Cloud Center of Excellence)」といった組織を社内に設け、先端技術や技術人材、ノウハウの集約・強化に取り組む企業が増えている。しかしながら、IPAの調査結果を見る限り、日本企業の現状はグローバルの水準から後れていると言わざるを得ない。

『Leading Transformation』の各章を紹介

 では、日本企業はどういった取り組みをしていくべきなのか。以下に挙げた取り組みによって、早期の課題解決が可能になると考える。

 各章ではこれらの取り組みについて事例を示しながら、あるべき姿を明らかにしていくので、DXに取り組もうと考えている皆さまは、ぜひ参考にしていただいて、プロジェクトの再点検を行い、自社の強みを活かした「人起点」のDXを成功に導いていただきたい。

第1章:人起点のデジタル変革をリードするCIOの役割
 DX推進における「人起点」の具体的な考え方と、その重要性を解説。CIOの役割がどのように変化し、DX成功のためにどのようなリーダーシップが求められているのかを把握できる。

第2章:組織内協調の促進で協業体制を構築
 IT投資の目的が、従来の業務効率化から新規ビジネス創出へと変化し、それに対応するための組織内協調の重要性を解説。情報システム部門とLoB間の課題である「溝」の原因と、その解消に必要な「共通認識」「共通言語」の策定方法のほか、IT投資の価値を最大化するTBMフレームワークの具体的な活用方法を学べる。

第3章:DX人材の育成と内製化の道筋
 なぜ今、日本企業にとってシステム開発の内製化が重要なのかを解説。DX推進に求められる人材像、特に「ビジネスアーキテクト」の役割とスキルを把握し、自社に必要な人材を育成するための具体的な「DX推進スキル標準」と、その活用方法について紹介する。

第4章:急速なテクノロジー進化に対応する新たな成長基盤の構築
 市場の変化に対応し、競争優位性を確立するには、テクノロジー活用が不可欠である。本章では、日本企業が新たなテクノロジー導入で直面する課題を認識し、その具体的な解決策として「テクノロジー・スプリント」という概念を提唱。テクノロジー・スプリントを実践することで、評価コストの削減や開発期間の短縮といったメリットを得られる。

第5章:競争優位性を確立する生成AIの活用法
 生成AIがビジネスに与える影響と、その巨大なエコシステムを理解し、最新の生成AIトレンドと、その活用領域を解説。企業での生成AI活用を成功させるための3つのフェーズと、最適な活用パターン選択の指針を紹介するとともに、生成AI活用における潜在的な法規制やリスク、そして、それらを乗り越えるための戦略的・技術的アプローチを紹介。さらに、生成AI活用をリードする新たな役職CAIOの重要性についても言及する。

第6章:持続的な成長を実現させるデータドリブン経営の実践
 現代のビジネス環境における「データドリブン経営」の必要性と、KKD(経験・勘・度胸)からの脱却の重要性を解説。データドリブン経営がもたらす意思決定の高度化や業務効率化などの具体的な効果を示すとともに、データドリブン経営を実現するための「データガバナンスの整備」「チェンジマネジメント」「データアーキテクチャの構築」という3つの主要なアプローチについて紹介。データガバナンスにおけるCoEの組織体制の考え方についても学べる。

第7章:クラウドコストの最適化とCCoEによる全社戦略
 クラウドの急速な普及と、それに伴うコスト最適化の重要性について解説。クラウドへの移行における「3つのR」と「マルチクラウド活用」という具体的なアーキテクチャ最適化戦略についてや、導入後のクラウドコスト削減を継続的に行うためのCCOアプローチ、そのための組織であるCCoEの役割について紹介する。

第8章:ゼロトラストの導入でセキュリティ強化を実現
 クラウド時代におけるセキュリティモデルの変化と、ゼロトラストの必要性について解説。ゼロトラスト導入における課題を認識し、境界型防御との「ハイブリッドモデル」という現実的なアプローチ方法について紹介し、セキュリティ投資の意義と、システム開発におけるセキュリティ対策の重要性や「シフトレフト」の概念、CISOの役割について言及する。

第9章:ITガバナンス改革でDXの推進力を高める
 ITガバナンスの3つの目標(パフォーマンス、リソース、リスクの最適化)と、そのバランスの重要性について解説。日本企業がITガバナンスで直面する課題、特に「攻め」のIT投資の不足とグループITガバナンスの難しさについて、「ガバナンス」と「マネジメント」の違い、およびCIOが担う中心的な役割について学べる。

第10章:IT組織の見直しでグループ経営に革新をもたらす
 DX時代にIT組織に求められる新たな役割と、従来の「コストセンター」からの脱却の必要性について解説。IT子会社が直面する課題と、DX推進に必要な人材育成、コミュニケーションの強化、ナレッジ共有の重要性について示しつつ、IT組織再編のための5つの具体的なモデルと、それぞれのメリット・デメリットを紹介。IT組織変革を成功させるための重要なポイント(組織文化の変革、キャリアパス、教育など)と、CIOのリーダーシップの重要性について把握できる。

終章:人起点DXの成功に向けた自己診断と未来戦略
 日本企業のDXの現状と、成果獲得に必要な長期的な視点について解説。本書の核心である「人起点」のDXの重要性を再確認しつつ、自社のDX成熟度を客観的に測定する「DXアセスメント」の有効性と具体的な評価項目を示し、アセスメントを通じて自社の「現在地」と課題を明確化。DX推進の具体的なロードマップ策定の道筋を見つける指針を示す。