第4は、「持たざる消費」です。これはアクセス・ベース消費とほぼ同じ意味です。

 リキッド消費傾向の強い人は、シェアリングやレンタルサービスなどを利用することで、所有せずに消費することが多くなります。

 かつて消費と所有は深く結びつくものと考えられてきました。人々は対価を払って何かを自分のものとし、それを消費するというのが暗黙の仮定でした。

消費欲求と所有欲求の関係が
大きく変化しつつある

 しかしマーケティングの研究者であるランバートンとゴールドスミスはこれを否定し、今日の市場では「消費欲求と所有欲求が直交している」と指摘しています。

 直交とは互いに無関係という意味で、彼らの主張は「今や何かを楽しみたいという気持ちと、それを欲しいという気持ちは無関係になった」と解釈できます。

 同様の指摘はモアウェッジらの研究にもみられます。彼らによれば、伝統的な消費では「物質」を「法的に所有」することが一般的でした。たとえば、家電、本、自動車、服、宝飾品、家具、住宅など、かたちがあるものを購入し、自分の所有物にします。

 これに対して最近では「経験」にお金を払ったり、所有権ではなく「法的アクセス権」(利用する権利)にお金を払ったりすることが普通になってきました。カーシェアリング、服や宝飾品のレンタルなどは「物質の法的アクセス権」を得る消費ですし、電子書籍、音楽ストリーミング、ライブ、テーマパーク、リゾートなどは「経験の法的アクセス権」にお金を支払う消費です。彼らはこうした現象を「消費の進化」と呼んでいます。

 2つの研究をまとめると、消費と所有が結びつかなくなり、かつては珍しかった所有を前提としない消費が増えてきたということになります。リキッド消費が浸透することで、「持たざる消費」が増えてきたと解釈できるでしょう。

 なお、ここまで説明した4つの消費は、相互に排他的ではありません。したがって単独でではなく、複数が同時に組み合わさることがよくあります。

 私は、軽く選ぶ消費、いろいろ楽しむ消費、ひと手間かけない消費、持たざる消費という4つの消費の背後には、「生活のジャスト・イン・タイム化」「興味のパケット化」「一時的所有」「不即不離」という4つの現象があると考えています。以下、順番に説明しましょう。