この時の、バッティングケージの後ろで大谷の打撃を見ていたヤクルトの村上宗隆が、アナリストから打球速度を聞いて色を失ったのはよく知られた話だ。

 村上の打球速度は180km/hを超え、NPBでは巨人の岡本和真と共にトップクラスだと言われているが、ここで紹介した通り180km/hそこそこでは、今のMLBではせいぜい「中の上」クラスであり、大谷のような活躍は「無理」ということになる。また村上と岡本はともに「内野手」だが、人工芝のNPBで守っていた日本の内野手は、MLBでは通用しないのが通り相場となっている。

打球速度にこだわらないと
MLBで飛躍の道はない

 2026年には村上も岡本もMLBに挑戦すると言われているが、それまでに少しでも打球速度を上げることができるだろうか?鈴木誠也はアメリカに来てから、肉体改造をして、必死に打球速度を上げているが、同様の努力を2人の日本のスラッガーはすることができるのか?

『野球の記録で話したい』書影『野球の記録で話したい』(広尾 晃、新潮社)

 ここからは私見ではあるが。率直に言って、今のMLBの「打球速度」本位主義を考えれば、NPB的な「強打者」はMLBに挑戦しない方がいいと思う。NPBにとどまれば2000本安打、1000打点、複数回のMVPなど多くの栄誉に恵まれ、名選手、殿堂入りの道が開けるが、MLBに行って、大谷のような活躍をするのは「大谷でなければ」難しいのではないか。

 例えば、日本ハムの万波中正のように、バランスは悪くとも身体能力に開発の余地があるような「素材タイプ」が、20代半ばで海を渡って、アメリカで「スーパーサイヤ人」(編集部注/漫画・アニメ『ドラゴンボール』に登場するサイヤ人の戦闘力を超えた戦士)になれば、飛躍の道はあるだろうが。

 最近、花巻東高からスタンフォード大に進んだ佐々木麟太郎や、東京の桐朋高を出てアスレチックスとマイナー契約した森井翔太郎のように、NPBを経由しない選手も出てきているが、こうした流れはさらに加速するのではないか。

 日米の野球は、経済格差で絶望的な差がついているが、その経済力の差が「競技そのものの差」になりつつある。そんな感想を持っている。