歯周病の治療で血液中のHDLコレステロールの値も改善することが報告されています。歯周病の存在が、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の発症や進行に関連するという明確なエビデンスはありませんが、歯周病によって引き起こされた炎症は動脈硬化性疾患のリスク因子と考えられます。
日本人の死因の上位を占める心疾患と脳血管疾患は、どちらも動脈硬化性疾患なので、歯周病予防の十分なモチベーションになると思います。
歯周病原菌と
アルツハイマー型認知症の関係
脳が関わる認知症と歯の病気である歯周病の関係といわれるとピンとこない人が多いかもしれません。しかし現在、両者の関連も議論されています。
認知症の中で最も多いとされるアルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβ(Aβ)やタウ(Tau)と呼ばれるタンパク質が蓄積することで、脳の神経細胞が壊されて認知機能障害を引き起こすと考えられている病気です。
では、歯周病はこの病気にどのように関係しているのでしょうか。
歯周病原菌やその毒素は血行性や神経系を介して脳に移行し、アミロイドβやタウと共同して脳の常在免疫細胞であるミクログリアを活性化させます。その結果、脳に自然免疫反応が引き起こされ、神経細胞を傷害するとされているのです。
このような神経炎症や神経細胞の組織変性の慢性化が、アルツハイマー型認知症の病態を増悪している可能性があるのではないかと考えられています。
ただ、歯周病だけでアルツハイマー型認知症を発症するとは考えにくく、発症時期を早めたり、認知障害の程度や進行を早めたり、といった作用があるのではないかという考え方が、現時点では有力です。
また、最も毒性が高いとされる歯周病原菌ポルフィロモナス・ジンジバリスは、ほかの歯周病原菌に比べて脳内に移行しやすい性質を有している可能性も示されています。