一番上の線は、上顎10歯、下顎8歯以上の歯が残っており、残存歯で十分な機能が営める人で、真ん中の線は、残存歯では十分な機能が営めないが、義歯を使用している人です。

 また、下の線は、歯は少ないにもかかわらず、義歯を入れていなかった人を表しています。

 このうち、歯がある人と、歯はないが義歯を入れている人の2つの線と、歯がなく義歯も入れていない人の線との間には有意な差があったと報告されています。

 もちろん、歯の有無、義歯の有無だけが生存に有意な差を及ぼしたわけではないと思いますが、歯や義歯の有無は、そうなってしまった要因も含めて、生存に影響を与えたと見ることができるでしょう。

歯や義歯の有無が
生存期間に大きく影響

 また、これとは別に、宮古島に住む40歳以上の住民5000人超を15年間にわたって追跡調査したという研究もあります(注3)。

 これは、機能歯数と生存期間の関係を調べたものです。機能歯数というのは「義歯やブリッジが入っていれば歯がある」とカウントしたものをいいます。

 なお、ブリッジということばも歯科治療の現場でよく登場するので説明しますと、義歯の1つで、取り外しできない固定式のものです。単純な例としては、欠損の両隣の歯のかぶせ物に、欠損部分の義歯を接着し、かぶせ物部分は両隣の歯に固定すると、取り外しをしない義歯ができます。

 さて、宮古島の研究に話を戻すと、追跡の開始が60歳代、70歳代では有意な差が見られないものの、80歳以上では、男女とも機能歯数が10本以上の住民において、機能歯数が10本未満の人と比べて有意な生存期間の延長が見られたことがわかりました。

 つまり、歯や義歯の有無が生存期間に与える影響は、高齢になるほど大きいということが示されたことになります。

 では、なぜこのような結果になるのでしょうか。「食べられなくなるから死ぬ」と短絡的には考えず、この疑問を頭の片隅に置きながら読み進めていってください。

(注1)嶋崎義浩. 歯および義歯の状態が全身の健康に及ぼす影響に関する施設入居高齢者の追跡研究.九州歯科学会雑誌.50巻1号,183-206,doi:10.2504/kds.50.183 (1996).
(注2)Appollonio, I., Carabellese, C., Frattola, A., Trabucchi, M. Influence of dental status on dietary intake and survival in community- dwelling elderly subjects. Age Ageing. 26, 445-455,doi:10.1093/ageing/26.6.445 (1997).
(注3)Fukai, K., Takiguchi, T., Ando, Y., et al. Functional tooth number and 15-year mortality in a cohort of community-residing older people. Geriatrics & Gerontology International. 7, 341-347, doi:10.1111/j.1447-0594.2007.00422.x (2007).