一方、ロシアはこれより前の2008年に隣国ジョージアに侵攻したり、2014年にもウクライナ領クリミアを一方的に併合したりしていましたが、ロシア軍はほとんど犠牲を出しておらず、ウクライナを侵略しても「現在の犠牲」は少ないと考えた可能性があります。

 逆に劣勢側のウクライナからみた場合、「現在の犠牲」を避けるために武器を置き、ロシアに降伏するとどうなるでしょうか。

 ロシアの占領下でおこなわれたような虐殺や女性への暴力、強制的な連れ去りといった「将来の危険」にさらされるでしょう。そこでウクライナは徹底抗戦する道を選びました。そして西側からの支援が、ウクライナによる抵抗を可能にしてきました。

トランプがいくら介入しても
彼らの戦闘は終わらない

 2025年1月現在、ロシアはウクライナ東部・南部の4つの州の大部分を占領しています。ここでロシアが停戦するメリットはなさそうです。このまま戦いを続け、ウクライナや西側が疲れ果てれば、キーウを陥落させることも夢ではなくなるからです。

 またウクライナ側は、たとえ停戦しても、ロシアが態勢を立て直し、合意を破って再び攻めてくる「将来の危険」を受け入れなければなりません。

 アメリカのトランプ政権は停戦を求めていますが、仮に停戦したとしても一時的なものとなり、紛争自体は長期にわたって続いていく可能性もある、といえるでしょう。

 また、イスラエル・ガザ紛争では、優勢勢力であるイスラエルは、ハマスを滅ぼすとしています。2023年になされたようなハマスによるテロの「将来の危険」を根絶するためとされます。2025年1月にイスラエルとハマスのあいだでいったん停戦が合意されましたが、停戦がいつまで続くかは予断を許しません。

 イスラエルが戦闘を再開すればハマスも抵抗しますし、ガザ全土を占領するとなるとイスラエル側の「現在の犠牲」も増えていきます。