気が付くと、スワは川底にいました。
ふと、両脚をのばしたら、すすと前へ音もなく進んだ。鼻がしらがあやうく岸の岩角へぶっつかろうとした。 大蛇! (太宰治著『晩年』新潮文庫、2005年) |
やなせ先生の作品はどうでしょうか。
母犬に育てられたライオンが、お母さんを忘れられず脱走し再会するものの、銃で撃たれてしまう『やさしいライオン』(フレーベル館)や、狼に育てられた羊が、親の仇討ちのために狼を殺してしまう『チリンのすず』(フレーベル館)と同様の作風ではないでしょうか。哀しみとメルヘンが共存している様子がよく分かります。
「難しいことを簡単に
表現する」ことの難しさ
やなせ先生は、井伏鱒二の『厄除け詩集』からも強い影響を受けています。同詩集は読みやすいポエムが集められており、そのなかには「『さよなら』だけが人生だ」という有名なフレーズが登場する「歓酒」も掲載されています。
コノサカヅキヲ受ケテクレ |
父が遺した島崎藤村や三木露風の詩集を読んできたやなせ先生にとって、井伏鱒二の平明な詩は衝撃的だったようです。こんなに分かりやすく詩を書いてよいのだと、驚きを覚えるとともに理解します。