
先の参院選を契機に、移民政策が国民的議論に急浮上したことは歓迎すべき動きです。ですが、これを「選挙だけのトピック」で終わらせてはなりません。日本は今、孤高の島国からグローバル社会への立ち位置を再定義するかつてない岐路に立っています。人口減少が進み、移民小国であり続けることが現実的かどうか…この問いに明確なビジョンと持続可能な戦略で答えなければなりません。本稿では、日本人社会の文化的特性と数世紀もこの問題に取り組む欧州の状況を踏まえ、この日本の未来を左右するテーマについて、筆者の視点から考察します。(Nagata Global Partners代表パートナー、フランス国立東洋言語文化大学非常勤講師 永田公彦)
他の先進国とは異なり
日本は今でも移民小国
まず、先の参議員選における政治討論やメディア・SNSをつうじた議論では、移民・不法移民・難民・外国人投資家・インバウンド旅行者など、外国人をごちゃ混ぜにしたもの、また、一部の切り取られた事象や発言だけを捉えた感情的または短絡的なものも多く見うけられました。
こうした中、本稿では、「移民(合法)」に焦点を絞り、客観的に捉えます。つまり、生活・仕事・留学などを目的に入国し、中長期間の在留資格を得て居住する外国籍者です。
また、本稿は「今でも日本は移民小国」という事実を前提にしています。まず、移民受け入れの歴史です。日本が政策的に受け入れを始めたのはわずか35年前です(1990年施行の改正入管法以降)。次に、移民の数です。日本の在留外国人の対人口比は、3.04%です(2024年末、法務省)。
この日本の状況は、良くも悪くも日本とその周辺国の歴史や地政学などさまざまな要因によります。一方、歴史的に内外の環境も異なり移民大国が多い欧米では、これらの数値は大きく異なります。
例えば、フランスの移民政策の歴史は170年以上あります(1848年の第二共和政の成立以降、外国人労働者の流入に伴う移民国籍取得に関する1851年法・1889年法など)。また、在留外国人の対人口比も、第一次大戦直後の1921年には3.7%に達しています。そして、昨今は8.2%ですが(2024年1月1日現在)、フランス国籍取得者250万人を含めると10.7%です。さらに、仮に移民を3世代でとらえ、2世(両親ともまたはいずれかが移民)と3世(祖父母4人またはいずれかが移民)を加えると、筆者と筆者の子供たちも含め、国民の3人に1人が移民系となります(INSEEフランス国立統計経済研究所)。