移民受け入れ議論が
沸騰した直接的な理由
今後、日本で質の高い移民受け入れ政策議論を進めるには、「なぜ、この問題がここにきて急に国民的議論に発展したのか」を検証する必要があります。
そこでよく言われるのが、最近の移民の急増です。これ自体は事実です。在留外国人は、戦後1980年代まで低空飛行でした。これが90年から増え始め、2023年までに3.5倍に膨らみました。特にコロナ禍を挟んだこの10年間で急増しています。在留外国人の対人口比率も、戦後40年以上にわたり1%未満、90年から26年間は1%台でした。ところが、2%台に入った2017年からわずか7年後の2024年には3%台に突入します。
このように移民小国の日本にしては急増ですが、世界的にみると日本の増加率は高くありません。OECD統計によると、直近4年間(2019~23年)の新規移民の上昇率は、OECD加盟国平均の27%に対し日本は約11%と半分以下です(特に高い国は、ニュージーランド約213%、イギリス約100%、メキシコ約72%)。
こうしたことから、日本での移民受け入れ議論が沸騰した直接的な理由は、少ないながらも未曽有の移民急増を経験しているということでしょう。しかし、古今東西、移民の受け入れが社会問題化する理由は、移民急増という単純なものではありません。背景には、国内外の経済と治安の悪化などによる社会不安とそれに伴う政治的動きが絡み、連鎖的に増幅されていく国民感情があります。
国民的議論に増幅させた
3つの連鎖的な要因
こうした中、先の参議員選で移民問題が社会問題として国民的議論にまで発展した理由として、既に日本で出ている主なものは次の3つです。全ては、移民の急増、昨今の日本の社会・経済・政治の情勢、国民心理の3つが絡んだものです。
(1)ここ数年の労働者不足による移民増に加え、インバウンド旅行者、外国人による不動産投資も急増した。これによる国民生活へのマイナスの影響のみが、メディアやSNSをつうじて強調・拡散された(不動産価格やホテル代の高騰、一部外国人によるマナー違反や犯罪、政府による移民政策と体制の不備など)。これが、国民の間で蓄積していた外国人に対する不安・不満・恐怖心をさらに高め、それが一気に表に噴出した。
(2)SNS戦略を駆使し勢いを増す新興政党が、反グローバリズムを掲げ移民問題を選挙の争点にした。これに他政党が呼応し、それにメディアやSNS上での多くの論者、インフルエンサー、国民による発言が重なり連鎖的に拡がった。