【日本人(受け入れ側)への多文化共生のための啓蒙と教育】
移民の受け入れの規模や条件は、その時々の国内外の環境変化により調整見直しを入れるとしても、受け入れるからには、日本人が多文化共生社会づくりに参加するために必要なマインドセットと能力を高める必要があります。
日本人社会の特性を考慮すると、そのための重要となる教育は、シティズンシップ教育(主権、人権、市民活動など)と思考力向上のための教育(批判的思考能力、情報リテラシーなど)です。
これを国が主導し、学校(小中高大学)や民間教育機関を通じ長期的に継続実施する必要があります。また社会人向けにはオンライン講座、啓発イベント、メディアキャンペーンも効果的でしょう。
参考までにフランスでの学校教育では、シティズンシップと批判的思考の向上をめざす主な科目として以下があげられます。
●道徳と公民(小1~高3):人権、自由、平等・博愛、政教分離、自尊心などに関する考察と議論を通じ、道徳心と批判的精神を育成し、民主的な社会生活への参加意識を育てる
●世の中を問う(小1~3):自分たちを取り巻く状況の描写・理解し、論理的考察の展開力を育成
●公民・法律・社会(高校):法制度、社会問題、政治参加などを扱い、議論や討論を通じて判断力と市民意識を育成
●哲学(高校3年次授業と高等学校教育修了の国家試験バカロレアで必須科目、任意で幼稚園から):批判的な思考を展開し判断に導く能力の育成と哲学の基礎を習得
●その他、実際の社会問題や政治的テーマを扱うディベート、:選挙ポスターや報道を比較し情報の信頼性やバイアスを見抜く力を養う模擬選挙や新聞分析、歴史・地理・哲学などと連携し複数の視点から物事を考える力を育てる教科横断型学習などもあります
また、多くの日本人が外国人(異文化)と接し交わる機会が少なく日本人社会に特有な文化に浸っています。つまり、外と内それぞれの世界の相違点が、相対的・客観的・本質的に見えにくい環境の中にいます。
こうしたことから、前述の2種類の教育に加え、グローバル人材育成教育も必須でしょう。特に、異文化マネジメント能力を高める必要があります。外国人と日本人の文化的特質を客観的に理解し、生活や仕事の場でよりスムーズに共生と協業をしていくための能力とスキルの習得です。
このグローバル人材育成教育は、筆者の専門分野のひとつであり、国際企業や海外の大学でも実際に指導しています。日本の大学でも約4年にわたり、実践重視の授業や海外プログラムを企画・導入してきました。その中で出会った若者たちは、驚くほどの吸収力と旺盛な好奇心を持ち、目を見張る成長を遂げています。彼らが自らの可能性に気づき、世界へ視野を広げる姿――それこそが、この教育が生み出す「目に見える成果」です。