1980年代後半~1990年代初頭にかけて、日本の建設現場にはイラン、パキスタン、バングラデシュの男性たちが出稼ぎにやってきていた。日本の水商売や風俗の店では外国人お断りを掲げていたことがあったため、フィリピンパブで遊ぼうとする者もいた。

 先の女性によれば、ムスリムの男性客は女性を見下し、時に暴力を振るうことがあったという。ムスリムだからといって全員が暴力的だとは限らない。だが、彼らは社会の底辺で不法就労者として働くことのやるかたない気持ちや、家族と離れて暮らす寂しさを抱えており、そのストレス発散の場としてフィリピンパブを利用していた。そういう意味では、普段より暴力的になる者も一定数いたのだろう。

 店側も、よほどのことがなければ、積極的にフィリピン人女性の身の安全を守ろうとはしなかったようだ。店主にとってみれば、短期で入れ替わる彼女たちは使い捨ての駒にすぎなかったにちがいない。

 だが、彼女たちの身には、ストーカーとなった客に追い回される、客から金を盗まれる、同僚に騙されるといったトラブルが頻発していた。そんな彼女たちが頼ったのが、同郷のフィリピン人男性だった。

同郷の男性にも騙され
クスリ漬けにされる女性も

 フィリピン人女性が興行ビザで来日する一方、フィリピン人男性は不法滞在で建設現場の肉体労働などをしていた。彼らの中には手っ取り早く金を手にしようと、不良グループを形成して在日フィリピン人相手の賭博を開催したり、闇金のようなビジネスをしたりする者たちがいた。女性たちはそんなフィリピン人の不良に金を払い、トラブルを解決してもらっていたらしい。

 かつて神奈川県で働いていた50代のフィリピン人女性は言う。

「横浜だけで3つくらいフィリピン人の男のグループがあった。私が仲良かったのはバターン州のグループ。お店の友達がバターン州の出身で、そのいとこがグループにいて紹介された。日本で困ったことがあると、バターン州のグループに頼む。(依頼費用は)3万~5万円。あの人たちは良くない人たち。フィリピン人の女の人の中には、あいつらと付き合ってる子がいたけど、みんなお金盗られてた」