第2のDX:トヨタ式カイゼンによる在庫管理――在庫を半分に

 販売管理システムの導入によって、受発注の土台が整った八戸東和薬品。国が10年に、「20年までに後発品の数量シェアを70%以上にする」という数値目標を設定(後に80%に引き上げ、21年に達成)すると、取引量も新規取引先も日に日に増えていった。次に立ちはだかった壁は、倉庫に潜む“見えない無駄”だった。在庫が増え過ぎて倉庫はパンク寸前になっていた。

「増築しないと駄目か……」と感じていたとき、高橋氏はトヨタ式カイゼンの考え方と出合う。トヨタ式カイゼンを指導する現場改善コンサルタントと接点があり、アドバイスを受ける機会を得た。

「『今ある在庫、全部適正だと思いますか?』と聞かれたとき、言葉に詰まりました。その時点で『分かってない』ことがはっきりしました」

 それまで、在庫は営業担当の“勘”で積まれていた。医薬品の販売代理店の使命は、医療機関や薬局から注文があったら即日届けること。朝9時半までに注文があったものは午前中に、午後1時までに注文があったものはその日のうちに届けるというのがルールだった。

 メーカーに注文してから入荷するまでには3日ほどかかるため、万が一欠品しては困るからと予防的に多めに仕入れる。ところが実際は、全く動かない商品も山のようにあった。2年分の在庫がある商品もあり、消費期限が切れて廃棄することもあった。

「在庫管理は、売り上げや利益と直結しているにもかかわらず、『見ていなかった』ことに気付いたんです。棚卸しは大変だし、キャッシュも減っていく。社員は残業続き。悪循環でした」

 高橋氏はまず、「適正在庫とは何か?」を学び直した。そして、トヨタ式カイゼンの原則に基づいて、発注量と出荷量を日単位で見直す仕組みを作った。商品ごとの在庫回転率、仕入れ頻度、出荷履歴を細かくデータ化し、最適解を導く。

 その結果、驚くべき変化が起きた。適正在庫に絞り込んだことで、全体の在庫量が約半分に圧縮されたのだ。

「棚がすかすかになったとき、不安になる気持ちもありました。でも、必要なときに必要な分だけ届く体制が整えば、むしろエラーは減るし、管理もしやすくなった」

在庫半減、売上高4倍を実現した中小の医薬品卸会社が取り組んだ四つのDXとは?八戸東和薬品
高橋 巧 社長

 この在庫削減がもたらした最大の効果は、キャッシュフローの改善だった。仕入れにかかる資金が減ることで、手元資金に余裕が生まれ、借り入れも最小限に抑えられるようになった。

「正直、キャッシュフローという言葉の意味もよく分かってなかったんですよ。でも、『モノを買い過ぎなければお金が残る』という、当たり前のことが実感として分かるようになりました」

 もう一つの大きな変化は、残業が減ったことだ。以前は在庫が多過ぎて棚卸しも大仕事だったが、在庫を減らしたことで作業効率が向上し、社員の負担も軽くなった。